離婚・家族 2026-09-14
離婚後の子の姓と戸籍 ― 親権者になっても子の戸籍は動かない。氏の変更許可と入籍届の手順
離婚して母が親権者になり旧姓に戻っても、子の姓と戸籍は自動では変わりません。子は父の戸籍に父の姓のまま残ります。母と同じ姓・同じ戸籍にするには、家庭裁判所の「子の氏の変更許可」と、市区町村への「入籍届」の二段階が必要です。婚氏続称を選ぶ場合、15歳以上の子が自分で申し立てる場合、後で戻したくなった場合まで、戸籍の動きを順番に書きます。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → [離婚が成立したら] → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
離婚から四年。子のパスポートを申請しに行った母親が、窓口で「お子さんの戸籍謄本を」と言われ、取ってみたら、子は元夫の戸籍に元夫の姓で入ったままでした。母は婚氏続称を選んでいたので、日常では母子とも同じ姓。学校も病院も、何も言われなかった。「四年間、気づきませんでした」。相談に来た母親は、そう言いました。この記事は、その「気づかない」がどこから来るかの話です。
離婚後の手続きの記事で、戸籍と姓の選択を一段だけ書きました。この記事は、その中で一番誤解が多い「子の姓と戸籍」だけを取り出します。誤解の中身はこうです。母が親権者になれば、子も自動的に母の戸籍に入り、母の姓になる。そうはなりません。親権と戸籍は、法律上まったく別の仕組みです。
離婚すると、婚姻で姓を変えた側(多くは妻)は、婚姻前の戸籍に戻るか、自分を筆頭者とする新しい戸籍を作ります。このとき、子は動きません。子は婚姻中の戸籍、つまり筆頭者(多くは夫)の戸籍に、夫の姓のまま残ります。母が親権者であっても、母が旧姓に戻っていても、です。この状態で困るのは、母と子の姓が違うこと、住民票上は同一世帯でも戸籍が別なこと、パスポートや学校の手続きで説明が要ることです。
子を母と同じ姓・同じ戸籍にするには、二段階の手続きが要ります。一段目が、家庭裁判所への「子の氏の変更許可」の申立てです(民法791条)。子の住所地の家庭裁判所に、申立書、子の戸籍謄本、母の戸籍謄本を出します。親権者が子の代理で申し立てられるのは15歳未満の子で、15歳以上の子は本人が申し立てます。離婚で親と姓が違ってしまった、という理由であれば、実務ではほぼ許可されます。手数料は子一人につき収入印紙800円と郵便切手で、申立てから許可まで、書面審理で数日から数週間です。
二段目が、許可審判書を持って市区町村に出す「入籍届」です。これで子は父の戸籍から抜けて、母の戸籍に入り、姓が母と同じになります。母が婚姻前の親の戸籍に戻っている場合、子はその戸籍には入れません(三世代は同じ戸籍に入れない決まりです)。その場合は、母が先に自分を筆頭者とする新しい戸籍を作ってから、子を入籍させます。離婚届を出すときに「新しい戸籍を作る」を選んでおくと、この手戻りがありません。
母が「婚氏続称」を選んだ場合はどうか。離婚後3か月以内に「離婚の際に称していた氏を称する届」を出すと、母は婚姻中の姓を名乗り続けられます。子の学校や仕事の都合で選ぶ人が多い形です。この場合、母と子の姓は同じに見えますが、法律上は別の氏(母は「離婚後に届け出た氏」、子は「父の氏」)で、戸籍も別のままです。同じ戸籍にするには、姓が同じでも、子の氏の変更許可と入籍届が同じように必要です。ここが一番の落とし穴で、「姓が同じだから手続きは要らない」と思って何年も戸籍が別のままの家庭があります。
子の氏を変えた後で、子が父の姓に戻したくなった場合は、成年に達してから1年以内であれば、届出だけで(家庭裁判所の許可なしに)元の氏に戻れます。それを過ぎると、再び家庭裁判所の許可が必要です。子が15歳以上で「自分は父の姓のままがいい」と言う場合は、本人の意思が優先されるので、親権者が代わりに申し立てることはできません。
| 母の選択 | 母の姓 | 子の姓・戸籍 | 同じ戸籍にするには |
|---|---|---|---|
| 旧姓に戻る | 旧姓 | 父の姓・父の戸籍のまま | 氏の変更許可+入籍届(母は新戸籍を作っておく) |
| 婚氏続称(3か月以内に届出) | 婚姻中の姓 | 父の姓・父の戸籍のまま(見た目は同じ姓) | 姓が同じでも氏の変更許可+入籍届が必要 |
| 15歳以上の子 | ― | 本人の意思で決める | 子本人が申し立てる |
現場の整理です。この母親は、離婚のときに「離婚の際に称していた氏を称する届」を出し、婚姻中の姓をそのまま名乗ることにしました。子と同じ姓でいたかったからです。ここで多くの人が、「同じ姓なのだから、同じ戸籍」と思います。違います。母は離婚で夫の戸籍から抜けて、自分を筆頭者とする新しい戸籍を作った。子はそのまま、夫の戸籍に残った。姓の文字は同じでも、法律上は母の氏と父の氏という別のもので、戸籍は別。パスポートの窓口で初めて分かるのは、住民票では母子が同じ世帯に見えるため、日常で戸籍を見る機会がないからです。
手続きは二段階でした。一段目、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申立て。子は14歳だったので、親権者である母が申し立てます。申立書、子の戸籍謄本、母の戸籍謄本、収入印紙800円、切手数百円分。理由は「父母の離婚により、母と子の氏が異なるため」。書面だけで審理され、申立てから12日で許可の審判書が届きました。二段目、市役所に入籍届。許可審判書と子の戸籍謄本を添えて出し、その日に受理。子は父の戸籍から母の戸籍に移り、母と同じ戸籍・同じ氏になりました。パスポートは、その翌週に申請できました。
もう一つ、この母親が心配していたのは「氏を変えると、父との関係が切れるのか」でした。切れません。子の氏と戸籍は「名前と記録の置き場所」で、父との親子関係、養育費、面会交流、将来の相続権は何も変わりません。父に手続きの同意を求める必要もありません(父が親権者でない場合)。ただ、父に一言知らせておくかは別の話で、この母親は、面会交流の際に「戸籍を私のほうに移した」と伝えました。父は「そうか」とだけ言ったそうです。
子の氏と戸籍を変えても、父との親子関係、相続権、養育費、面会交流は何も変わりません。氏と戸籍は「名前と記録の置き場所」の話で、親子関係そのものを動かす手続きではありません。子の戸籍を母の側に移しても、父が亡くなれば子は相続人ですし、父の養育費の義務も続きます。逆に、母が再婚して子を再婚相手の戸籍に入れたい場合は、再婚相手との養子縁組の話になるので、離婚後の再婚の記事で扱います。
帰り際に母親が言いました。「四年前に、離婚届を出した窓口で、誰か一言教えてくれれば」。窓口は、聞かれなければ言いません。離婚届と婚氏続称の届と、子の氏の変更は、別の窓口の別の手続きだからです。この記事の表は、その「別」を一枚にしたものです。離婚届を出す前に、この表の自分の行を見て、子の戸籍がどこに残るかを確かめてください。パスポートの窓口で気づくより、そのほうが早い。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-15
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。