土地・不動産 2026-09-09
長期優良住宅 ― 認定の基準と税の優遇、そして「認定を引き継ぐ」義務
長期優良住宅は、耐震・劣化対策・維持管理・省エネなどの基準を満たし、着工前に自治体の認定を受けた住宅です。登録免許税・不動産取得税・固定資産税の軽減と、住宅ローン控除の上限の引き上げがあります。代わりに、認定時の維持保全計画に沿って点検と記録を続ける義務があり、売却や相続では認定と記録が引き継がれます。基準の中身、優遇の額、義務、中古市場での扱いを整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → [買う前に確認すること] → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
「長期優良住宅にすると100万円くらい高くなるって言われたんですが、元は取れますか」。家を建てる前の30代の夫婦が、ハウスメーカーの見積もりを二枚持って来ました。一枚は一般の仕様、もう一枚は認定を取る仕様で、差は約110万円。営業の人は「税金で戻ってきます」と言ったそうです。戻ってくるのか。戻るとして、いくらか。私はその場で、優遇を一つずつ金額にしていきました。この記事は、その計算の話です。
建物の評価の記事で、日本の家は築20年前後で建物の評価がほぼゼロになる、と書きました。「長く使える家を建てて、長く使う」方向に住宅政策を変えるために、2009年に始まったのが長期優良住宅の認定制度です。新築で認定を受けた住宅は、2026年3月末時点で累計約190万戸(国土交通省の公表値)。2025年度は、新築戸建ての着工戸数の約5割が認定を受けています。家を建てる人、買う人、相続する人が知っておくべきことを書きます。
認定の基準は、大きく分けて、構造と性能の基準と、計画の基準です。構造と性能では、耐震性(耐震等級2以上、または免震など。2022年からは等級3が原則の区分もあります)、劣化対策(構造躯体が数世代にわたって使える措置、劣化対策等級3)、維持管理の容易さ(配管の点検・交換がしやすい、維持管理対策等級3)、省エネルギー(断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6、2022年10月以降)、居住環境(地区計画や景観との調和)、住戸の面積(戸建てで75㎡以上、少なくとも一の階が40㎡以上)、災害への配慮(土砂災害警戒区域などでの措置)。計画の基準は、維持保全計画(少なくとも10年ごとの点検、必要な補修の計画)を作ることです。
認定は、着工前に所管行政庁(市や都道府県)に申請します。設計の段階で基準を満たしていることを評価機関に確認してもらい、その結果を添えて申請し、認定通知書を受け取ってから着工します。すでに建っている家については、増改築をして認定を受ける仕組み(2016年から)と、増改築をしないで認定を受ける仕組み(2022年10月から)がありますが、新築で認定を取るなら着工前の申請が前提です。「長期優良住宅にしたい」は、設計の最初の段階で工務店やハウスメーカーに伝える必要があります。申請の費用は、評価機関の手数料と申請手数料で数万円から十数万円、加えて基準を満たすための建築費の上乗せがあります。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 耐震性 | 耐震等級2以上(区分により等級3)、または免震 |
| 劣化対策 | 劣化対策等級3(数世代にわたり構造躯体が使える) |
| 維持管理の容易さ | 維持管理対策等級3(配管の点検・交換がしやすい) |
| 省エネルギー | 断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6 |
| 住戸面積 | 75㎡以上、一の階が40㎡以上 |
| 居住環境・災害配慮 | 地区計画等との調和、警戒区域等での措置 |
| 維持保全計画 | 10年ごと以内の点検と補修の計画、記録の保存 |
優遇を書きます。不動産取得税と登録免許税の記事で書いた税率が、認定住宅では下がります。登録免許税は、所有権保存登記が0.15%から0.1%に、移転登記が0.3%から0.2%(戸建て)に。不動産取得税は、新築住宅の課税標準の控除が1,200万円から1,300万円に。固定資産税の新築住宅の減額(2分の1)の期間が、戸建てで3年から5年、マンションで5年から7年に。住宅ローン控除は、対象になるローン残高の上限が一般の住宅より高く設定されています(2026年9月時点で認定住宅は4,500万円、子育て世帯などは5,000万円)。住宅ローンの金利でも、フラット35の金利引下げの対象になります。これらは期限付きで、税制改正で変わるので、建てる時点の要件を確認してください。
義務も書いておきます。認定を受けた人は、認定時に作った維持保全計画に沿って、点検と補修を行い、その記録を保存しなければなりません。所管行政庁は、状況の報告を求めることができ、計画に従わない場合は認定を取り消すことがあります。実務では、10年ごとの点検を工務店やハウスメーカーの有償の点検サービスで行い、記録を「住宅履歴情報」として残す、という形が多い。この記録が、次に書く売却と相続で効いてきます。
| 項目 | 一般住宅 | 長期優良住宅 |
|---|---|---|
| 登録免許税(保存/移転) | 0.15% / 0.3% | 0.1% / 0.2%(戸建て) |
| 不動産取得税(新築の控除) | 1,200万円 | 1,300万円 |
| 固定資産税の新築減額(1/2) | 戸建て3年/マンション5年 | 戸建て5年/マンション7年 |
| 住宅ローン控除の残高上限 | 省エネ基準適合住宅2,000万円(子育て世帯等3,000万円) | 4,500万円(子育て世帯等5,000万円) |
| フラット35 | — | 金利引下げの対象 |
売却するときは、認定を買主に引き継ぐ手続き(地位の承継の承認申請)をします。認定と維持保全の記録が揃った中古住宅は、性能が証明され、点検の履歴がある家として、そうでない家より評価されやすい。建物の評価の記事で書いた「築年数でゼロになる評価」に対して、性能と履歴で価値を残す道が、この制度の狙いの一つです。相続でも同じで、相続人は認定を承継し、維持保全の義務も引き継ぎます。相続した家が長期優良住宅なら、認定通知書と点検の記録を探し、承継の手続きをしておく。空き家の記事で書いた「売る」判断でも、認定の有無は価格に影響します。
現場の数字です。建物の評価額は、建築費2,400万円から見て、固定資産税評価額は1,400万円前後になる見込み(評価額は建築費の5〜7割が目安)。土地は所有済み。住宅ローンは3,500万円、35年。この前提で、認定の有無による差を並べました。登録免許税は、所有権保存登記が0.15%から0.1%に下がるので、1,400万円×0.05%で7,000円の差。抵当権設定は住宅ならどちらも0.1%で差なし。不動産取得税は、新築住宅の控除が1,200万円から1,300万円に増えるので、1,400万円から控除を引いた課税標準が200万円から100万円に減り、税率3%で3万円の差。固定資産税は、新築の2分の1減額が3年から5年に延びるので、建物の固定資産税を評価額1,400万円×標準税率1.4%で年19万6,000円とすると、減額分9万8,000円が2年余分に続いて19万6,000円の差(評価替えで評価額が下がれば、差も少し小さくなります)。ここまでで約23万円です。
大きいのは住宅ローン控除でした。控除の対象になるローン残高の上限は、認定を取らない仕様(省エネ基準適合住宅)で2,000万円、子育て世帯・若者夫婦世帯なら3,000万円。認定住宅は4,500万円、同じ世帯なら5,000万円です(2026年9月時点)。この夫婦は30代で若者夫婦世帯に当たるので、3,000万円と5,000万円の比較になります。ローンは3,500万円なので、認定を取らなければ3,000万円を超える500万円分が控除の対象外になります。控除率0.7%で年3.5万円、13年で最大45万円の差です(残高は返済で減っていくので、実際の差はこれより小さくなります)。フラット35を使う場合は、長期優良住宅は【フラット35】Sの金利Aプランに当たり、当初5年間の金利が年0.5%下がります(住宅金融支援機構の公表。ZEHは0.75%、Bプランは0.25%。予算に達すると受付終了)。3,500万円のローンで初年度は年約17万円、5年で約80万円の差。ここまで合わせると、優遇は最大で約150万円になりました。110万円の上乗せを、最大の場合で上回る額です。
つまり「元が取れる」かどうかは、優遇だけでは決まりませんでした。決め手は別のところにあります。一つは10年ごとの点検の費用で、メーカーの有償点検が一回5〜10万円、35年で三〜四回。もう一つは、売るときや相続のときに、認定と点検記録が家の価値として残るかどうか。夫婦は「30年は住む」と言い、点検の費用を払っても、性能の証明と記録が残るほうを選びました。同じ計算を、5年で転勤の可能性がある家族にしたときは、答えは逆でした。
最後に、認定を受けない選択もあることを書いておきます。基準を満たす建築費の上乗せと申請費用に対して、税の優遇と将来の価値がどれだけ見合うかは、家の規模と住む年数で変わります。小さな家、短く住む予定の家では、優遇が費用に見合わないこともあります。認定は「良い家の証明」ですが、「認定がない家は良くない」ではありません。家を建てる前に、優遇の額を試算して、決めてください。
帰り際に夫が言ったのは、「営業の人は『税金で戻る』と言ったけど、税金で戻るのは6割くらいで、金利の分を足せば上乗せは取り戻せる。でも決め手は家の価値の話なんですね」でした。その理解が正確です。認定は、税金で得をする仕組みというより、長く住む家の性能と履歴を証明する仕組みで、優遇はその手当てです。建てる前に、優遇を金額にして、点検の費用と並べ、住む年数と比べる。この記事の最後の一段落は、その順番を書いています。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-02
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-02 確認)。
- 住宅金融支援機構 【フラット35】S ― 金利引下げメニュー(ZEH 当初5年0.75%、金利Aプラン 当初5年0.5%、金利Bプラン 当初5年0.25%)と予算による受付終了
- 国土交通省「長期優良住宅のページ」 ― 制度の概要、認定基準、認定実績。既存住宅の認定(増改築は2016年4月、増改築なしは2022年10月から)
- 国土交通省 報道発表「長期優良住宅の認定状況について(令和7年度末時点)」 ― 新築の認定は累計190万1,046戸(2026年3月末)。2025年度は新築戸建ての着工戸数の49.8%
- 国土交通省「認定長期優良住宅を取得したときに利用できる減税制度」 ― 登録免許税・不動産取得税・固定資産税の特例と適用期限、住宅ローン減税の借入限度額
- 国土交通省「住宅ローン減税(住宅を新築したとき)」 ― 住宅の区分ごとの借入限度額(長期優良住宅4,500万円、省エネ基準適合住宅2,000万円、子育て世帯等の上乗せ)