土地・不動産 2026-09-09

建物の評価と減価償却 ― 相続税では固定資産税評価額、売却時の取得費は年数で減る

建物の値段は、場面によって三つの顔を持ちます。相続税の評価(固定資産税評価額そのまま、貸家は3割減)、売却時の取得費(買った値段から経過年数分を減価償却)、そして実勢価格。相続した実家を売ると税金が思ったより高い理由は、この減価償却にあります。計算式、木造とマンションの償却率の違い、築古の家の扱いを整理します。

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この記事の位置: [まず読む:値段と書類の読み方] → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利

「買った値段より安く売ったのに、税金が480万円と言われました」。相続した実家を2,500万円で売った60代の女性が、税務署からの案内を持って来ました。親が買ったときの値段は、たしか3,000万円。安く売ったのだから、利益はないはず。なのに税金が来る。この「なのに」を解くのが、この記事です。答えは、建物の値段が、三つの場面で三つの顔を持つことにあります。

土地の値段が四つある、という記事を書きましたが、建物の値段にも場面ごとの顔があります。相続税の評価、売却時の取得費、実勢価格の三つです。土地と違って建物は年々価値が減るので、「いつの、どの場面の値段か」を意識しないと、相続した実家を売ったときの税金で驚くことになります。

一つ目、相続税の評価です。建物の相続税評価額は、固定資産税評価額そのものです。倍率も補正もなく、課税明細書に載っている建物の評価額がそのまま相続税の評価になります。貸している建物なら、そこから借家権割合の30パーセントを引きます。固定資産税評価額は建築費の5〜7割程度で決まり、三年ごとの評価替えで経年減価していくので、築30年の木造住宅なら数十万円から百数十万円、という評価額は珍しくありません。相続税の場面では、建物は軽い財産です。

二つ目、売却時の取得費です。ここが落とし穴です。不動産を売ったときの税金の記事で書いたとおり、譲渡所得は「売った値段−(取得費+譲渡費用)」で計算します。建物の取得費は、買ったときの値段そのままではなく、買ってから売るまでの年数分の減価償却費を引いた額です。自宅など事業に使っていない建物の償却は、「取得価額×0.9×償却率×経過年数」で計算し、償却率は木造で0.031、鉄筋コンクリート造で0.015(法定耐用年数の1.5倍で定額法)です。

数字で見ます。20年前に2,000万円で建てた木造の家。償却費は2,000万円×0.9×0.031×20年で1,116万円。取得費は2,000万円−1,116万円で884万円です。同じ2,000万円でも、鉄筋コンクリート造のマンションなら償却率0.015で、20年の償却費は540万円、取得費は1,460万円。木造は「値段が早く消える」構造で、築古の木造住宅は取得費がほぼゼロまで下がります(ただし取得価額の5パーセントが下限です)。

取得価額2,000万円の建物を20年後に売るときの取得費(非事業用・定額法)
木造(償却率0.031)取得費 884万円 / 償却済み 1,116万円
鉄筋コンクリート造(0.015)取得費 1,460万円 / 償却済み 540万円

償却費=取得価額×0.9×償却率×経過年数。取得費の下限は取得価額の5%。

これが、相続した実家を売ると税金が高くなる理由です。土地の取得費は減りませんが、建物は減価償却でほとんど残らない。親が3,000万円で買った土地付き建物(土地1,500万、建物1,500万)を相続して2,500万円で売った場合、建物が築30年の木造なら取得費は1,500万円×(1−0.9×0.031×30)でおよそ245万円まで下がり、土地1,500万円と合わせた取得費は約1,745万円。売値との差額は約755万円で、ここから仲介手数料などの譲渡費用を引いた残りが譲渡所得です。「買った値段より安く売ったのに税金がかかる」のは、この仕組みのためです。

三つ目、実勢価格です。中古住宅の市場では、木造住宅の建物価値は築20〜25年でほぼゼロと見なされ、それ以降は土地の値段で取引されるのが実情です。2018年以降、建物状況調査や既存住宅の性能表示で建物の価値を評価する動きはありますが、査定の現場では「築古の木造=土地値」が今も基本です。相続税の評価額が低い、取得費も低い、実勢もほぼゼロ。三つの顔がどれも低くなるのが築古の木造住宅で、その代わり、土地の価値が全体を決めます。

建物の三つの値段
場面何を使うか築古の木造住宅の傾向
相続税の評価固定資産税評価額(貸家は30%減)数十万〜百数十万円
売却時の取得費取得価額−減価償却費(下限5%)ほぼゼロに近づく
実勢価格市場の査定築20〜25年でほぼゼロ、土地値で取引

現場で最初に聞いたのは、「買ったときの契約書はありますか」でした。ありませんでした。親が亡くなり、家を片づけたときに、古い書類は処分してしまった。取得費を証明できない場合、税法は「売った値段の5%」を取得費とみなします。2,500万円の5%は125万円。譲渡所得は2,500万円から125万円と譲渡費用(仲介手数料など約90万円)を引いた約2,285万円。長期譲渡の税率20.315%で、税金は約464万円。税務署の案内の480万円は、ほぼこの計算でした。

それから二週間、女性は実家の押入れと、親が使っていた銀行の貸金庫を探しました。出てきたのは、30年前の建築請負契約書(建物1,500万円)と、土地の売買契約書(1,500万円)。合わせて3,000万円で、記憶は正しかった。ここから取得費を計算し直します。土地は1,500万円のまま。建物は木造で築30年なので、償却費は1,500万円×0.9×0.031×30年で約1,255万円、取得費は約245万円。土地と建物を合わせた取得費は約1,745万円。譲渡所得は2,500万円から1,745万円と譲渡費用90万円を引いて約665万円。税金は約135万円。書類二枚で、税金が464万円から135万円に下がりました。差額は約330万円です。

もう一つ確かめたのは、相続した空き家の3,000万円控除でした。この特例は、1981年5月31日以前に建った家で、亡くなった人が一人で住んでいて、相続から3年目の年末までに、耐震改修するか取り壊して売る、といった要件があります。この家は1996年築だったので対象外でした。対象なら、譲渡所得665万円は控除の範囲内でゼロになり、税金もゼロでした。築年一つで分かれる差です。相続した家を売る前に、建築年と、親が一人暮らしだったかを確かめる理由が、ここにあります。

実務で相続人に伝えるのは二つ。売る前に、建物の取得価額と建築年を示す書類(請負契約書、住宅ローンの記録、登記事項証明書の新築日)を探すこと。それが取得費の計算の土台になります。そして、建物の評価額が低いからといって、土地の評価額まで低いとは限らないこと。相続税の当たりをつけるときは、建物と土地を分けて考えてください。

申告のあと、女性が「書類を捨てなければよかった」と言いました。その通りですが、責める気にはなれません。家を片づけるとき、30年前の契約書を残す人はまれです。だからこの最後の段落に、相続人に伝えることを二つ書いています。売る前に取得価額の書類を探すこと。そして、家を片づける前に、契約書と権利証の入った封筒だけは残すこと。三つの顔のうち、取得費だけは、紙がないと出てこない値段です。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-30

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-30 確認)。

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