離婚・家族 2026-09-30
離婚後300日以内に生まれる子の出生届 ― 2024年4月から、出産前に再婚していれば今の夫の子に
離婚から300日以内に生まれた子は、原則として前の夫の子と推定されます。2024年4月の民法改正で、出産までに母が再婚していれば再婚後の夫の子と推定されるようになり、再婚禁止期間もなくなりました。再婚しない場合の「懐胎時期に関する証明書」と、母と子にも広がった嫡出否認(3年)、出生届の14日の期限を、離婚から283日目に出産予定だった方の例で整理します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → [状況別(当てはまる方だけ)]
「離婚して五か月です。いまお付き合いしている人との子を妊娠していて、予定日は、前の夫とのあいだの子になってしまう期間の中なんです」。電話の声は落ち着いていましたが、質問は具体的でした。離婚届を出したのは2025年11月10日、出産予定日は2026年8月20日。離婚から283日目です。相手の男性とは結婚するつもりで、婚姻届の時期はまだ決めていない、とのことでした。
民法772条は、婚姻中に妊娠した子を夫の子と推定し、離婚の日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に妊娠したものと推定します。二つを合わせると、離婚後300日以内に生まれた子は、原則として前の夫の子と推定されます。出生届はこの推定に沿って受け付けられるので、何もしなければ、子は前の夫を父として届け出ることになります。長く「300日問題」と呼ばれてきたものです。
2024年4月1日に施行された民法の改正で、ここに例外ができました。子が生まれる時までに母が再婚していれば、離婚後300日以内に生まれた子でも、再婚後の夫の子と推定されます(772条3項。妊娠から出生までに二つ以上の婚姻があれば、出生にいちばん近い婚姻の夫の子とする)。あわせて、女性だけにあった100日の再婚禁止期間は廃止されました。離婚の翌日に婚姻届を出すこともでき、出産前に再婚すれば、出生届は最初から今の夫を父として出せます。この扱いは、2024年4月1日以降に生まれた子に限られます。それより前に生まれた子は改正前の決まりのままで、否認できるのは夫だけ、期間は1年です。施行から1年間に限って、前に生まれた子と母も否認の訴えを出せる特例がありましたが、その期間は2025年3月31日で終わっています。
横一本の時間の線。左端が2025年11月10日の離婚、右端が300日目の2026年9月6日。その間は「原則は前の夫の子と推定」の点線の枠。途中の2026年6月に婚姻届、8月20日(283日目)に出生。婚姻届が出生より前なので、子は今の夫の子と推定される。
婚姻届が出生より後なら、推定は前の夫のまま変わりません。
再婚しないまま出産する場合の道は、二つあります。一つ目は「懐胎時期に関する証明書」です。医師が、推定される妊娠の時期と、その時期を出した根拠を書く書面で、様式は法務省が公開しています。この証明書で、妊娠の時期として考えられる最も早い日が離婚の日より後だと分かれば、772条の推定は及ばないものとして、母の子(嫡出でない子)としての出生届や、後に結婚した夫を父とする出生届が受け付けられます。2007年5月から続いている取扱いです。妊娠の時期の幅が一日でも離婚の日の前にかかると、この道は使えません。
二つ目は、嫡出否認です。以前は夫しか否認できず、期間も1年でしたが、2024年4月以降に生まれた子については、子と母も否認できるようになり、期間は原則3年に延びました(民法774条・777条。母の否認は、子の利益を害することが明らかなときはできません)。手続きは、まず家庭裁判所の嫡出否認調停です。調停で双方が「前の夫の子ではない」と合意し、家庭裁判所が事実を調べて正当と認めれば、合意に従った審判がされます。申立ての費用は収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手で、切手の額は裁判所ごとに違います。親子関係がないことを確かめるために鑑定をすることがあり、その費用は原則として申立人が負担します。相手方は前の夫なので、前の夫に連絡が届き、調停の場で向き合うことになります。
前の夫の側にも、否認の道が残っています。再婚後の夫の子と推定された子について、母の前の夫は、子の出生を知った時から3年以内なら、再婚後の夫の子であることを否認できます(子の利益を害することが明らかなときを除く)。再婚すれば全部が終わる、というわけではないことは、知っておいてください。
証明書の道で、母の子(嫡出でない子)として出生届を出した場合、今の男性と子の間には、まだ法律上の親子関係がありません。男性が認知の届を出すことで、はじめて父と子になります(民法779条)。養育費を求める権利も、子が父を相続する権利も、この認知から始まります。結婚するかどうかと関係なく、認知の届だけは先に出しておく、という順番を勧めています。
注意してほしいのは、出生届の期限です。出生届は、生まれた日を含めて14日以内に出します(戸籍法49条)。「前の夫の子として載るのは嫌だ」と届を出さずにいると、子は戸籍のない状態(無戸籍)になり、健康保険や予防接種、のちの就学やパスポートまで、手続きのたびに説明と別の書類が要る状態になります。法務省は全国の法務局に無戸籍の相談窓口を置いています。迷ったら、届を止める前に、法務局か市区町村の戸籍の窓口に相談してください。
この方の場合を、日付で並べます。離婚は2025年11月10日、300日目は2026年9月6日。出産予定日の8月20日は、300日の内側です。選べる道は、出産前に婚姻届を出す、出産後に懐胎時期の証明書を取る、前の夫の子として届けてから嫡出否認をする、の三つでした。証明書の道は、主治医に聞くと、妊娠の時期として考えられる幅が離婚の日の前にかかる見込みで、使えそうにありませんでした。否認の道は、前の夫と調停で向き合うことになります。
二人は6月に婚姻届を出しました。婚姻届は、夫か妻の本籍地か住所地の市区町村に出せます。婚姻届にも出生届にも、手数料はかかりません。出生届は、病院で医師か助産師に出生証明書を書いてもらう欄と一枚になった用紙を使います。8月に子が生まれ、出生届は今の夫を父として、そのまま受け付けられました。もし否認の道を選んでいたら、印紙1,200円と切手代、鑑定をすればその費用がかかり、何より、前の夫に子が生まれたことを伝え、裁判所に来てもらう必要がありました。
| 道 | 使える条件 | かかるお金 | この方は |
|---|---|---|---|
| 出産前に再婚する | 出生の時までに婚姻届(2024年4月以降の出生) | 0円(届の手数料なし) | 選んだ |
| 懐胎時期の証明書 | 妊娠の時期の最も早い日が離婚の日より後 | 医師の文書料(医療機関ごとに違う) | 幅が離婚の日の前にかかり、使えない見込み |
| 嫡出否認の調停 | 子の出生から原則3年以内(母・子の申立て) | 印紙1,200円+郵便切手(鑑定をすればその費用) | 前の夫と調停で向き合う必要 |
一つだけ、最後まで気をつけたことがあります。推定を変えるのは「出生の時までの婚姻」で、生まれた後に婚姻届を出しても、推定は前の夫のままです。予定日より早く生まれることもあるので、この方には、予定日の一か月前ではなく、決めた時点ですぐ出すように勧めました。子の姓や戸籍の入り方は、再婚のしかたでも変わるので、離婚後の子の姓と戸籍の記事と、離婚後の再婚の記事もあわせて読んでください。
「前の夫の子になる」という不安は、2024年4月の改正で、再婚という一枚の届で解けるようになりました。ただし、再婚を急ぐ理由がない人が、そのためだけに結婚を早める必要はありません。証明書と否認という道が残っています。どの道でも、出生届の14日は待ってくれないので、予定日の前に、どれを選ぶかを決めておくことが一番の準備です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-30
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-30 確認)。
- 法務省「民法等の一部を改正する法律について」(嫡出推定制度の見直し) ― 2024年4月1日施行。再婚後に生まれた子は再婚後の夫の子と推定、再婚禁止期間の廃止、子と母の否認権、出訴期間3年
- 法務省「婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子の出生の届出の取扱いについて」 ― 懐胎時期に関する証明書で、離婚後の懐胎と認められる場合の出生届(2007年5月21日から)
- 裁判所 嫡出否認調停 ― 申立人と期間、収入印紙1,200円と郵便切手、鑑定費用の負担