学び・資格 2026-09-25
試験日から逆算する勉強計画 ― 総時間ではなく「残り周回数」で組む
「あと600時間」と手帳に書いて、足りないと青ざめる。資格試験の計画は、総時間で組むと遅れたときに何を削ればいいか分かりません。過去問を何周回せるかで逆算すると、1周目の速さを測るだけで計画が立ち、遅れても削る場所がはっきりします。7月に相談に来た行政書士試験の受験生の実際の数字で、組み方を書きます。
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「あと600時間、要るらしいんです」。7月の初めに相談に来た30代の会社員は、手帳の見開きを開いて言いました。目標は11月の行政書士試験。4月から通信講座でテキストを一通り読み終えていて、これから過去問に入るところでした。平日2時間、休日5時間で数えると、試験日までに使えるのは340時間ほど。「600時間に足りません。もう無理ですか」。私は手帳の「600」を指で隠して、「数えるものを変えましょう」と言いました。
時間で数えると、計画はいつも足りなく見えます。本やネットに出ている「合格に必要な勉強時間」は、ゼロから始めた人の平均のような数字で、今のその人の残りの量とは関係がありません。数えるべきは、試験日までに過去問を何周回せるか、です。私が使ってきた勉強法では、過去問を解くたびに正誤と一緒に「確信があったか」を記録し、2周目以降は「確信を持って正解した問題」を飛ばします。だから、1周目がいちばん遅く、周を重ねるほど対象が減って速くなる。この考え方は確信度の元ネタの記事に書きました。
計画の立て方は四つの手順です。一つ目、試験日から逆に、使える週の数と1週間の時間を書き出す。行政書士試験は例年11月の第2日曜、宅建士試験は例年10月の第3日曜で、毎年の日付は試験を実施する団体の案内で確かめます。書き出すのは「理想の時間」ではなく、仕事や家のことを引いた「実際に座れる時間」です。
二つ目、1周目の速さを測る。最初の2週間は計画を立てずに、1問ごとにかかった時間を記録します。1周目は、問題を読み、解説を読み、分からなければ条文やテキストに戻るので、1問に5〜8分かかる人が多いというのが、私がこれまで見てきた範囲の感覚です。この数字は人によって倍ほど違うので、他人の数字ではなく自分の2週間の記録を使います。
三つ目、周ごとの対象の数を見積もる。2周目に解くのは、1周目で「確信なしの正解」と「不正解」だった問題だけ。3周目は、2周目でもまだ確信が持てなかった問題だけ。一つの周で、対象がおよそ半分前後に減っていくのが普通です。四つ目、試験前の3週間は周回に使わず、全範囲を1回通すことと模試、記述式の練習に取っておく。この3週間を最初に確保しておくと、途中の遅れを吸収する余白にもなります。
会社員の数字を当てはめます。手元の過去問は、科目別の問題集で約1,200問。最初の2週間で測った1周目の速さは1問6分でした。1,200問×6分で120時間。7月第2週から試験日までは約17週、1週間に座れるのは平日2時間×5日と休日5時間×2日で20時間、合わせて340時間。最後の3週間の60時間を除くと、周回に使えるのは280時間です。
2周目は、1周目で確信を持って正解した約4割を除いた720問で、2周目は解説を読む量が減るので1問4分、48時間。3周目は360問を1問3分で18時間。4周目は150問を1問3分で7.5時間。4周の合計は約194時間で、280時間のうち86時間が残ります。この86時間を、記述式と基礎知識の文章理解に回す計画にしました。「600時間」の手帳は、「4周で194時間、余り86時間」の表に変わりました。
| 周 | 解く問題 | 1問の時間 | 必要な時間 |
|---|---|---|---|
| 1周目 | 1,200問(全部) | 6分 | 120時間 |
| 2周目 | 720問(確信なし正解と不正解) | 4分 | 48時間 |
| 3周目 | 360問 | 3分 | 18時間 |
| 4周目 | 150問 | 3分 | 7.5時間 |
| 合計 | 約194時間(残り86時間は記述式と文章理解へ) |
実際には、計画どおりには進みませんでした。8月はお盆の帰省と仕事の繁忙期が重なり、2周目が予定より2週間遅れた。ここで、総時間で立てた計画だと「どこを削るか」で迷います。周回で立てていると、答えは決まっていて、4周目の対象を150問から「2周続けて確信なし」の問題に絞ればいい。加えて、9月から休日の時間を5時間から6時間に増やしました。10月の終わりに4周目を終え、最後の3週間は予定どおり全範囲の通しと模試2回。11月の本試験は300点中196点で、合格基準の180点を超えました。
計画:7月 1,200問、8月 720問、9月 360問、10月 150問、11月 0問/実際:7月 1,200問、8月 900問、9月 480問、10月 120問、11月 0問
点線が計画、実線が実際。8月に遅れたぶんは、4周目の対象を「2周続けて確信なし」の問題に絞って取り戻した。
記録の付け方は簡単です。ノートでも表計算でもよく、1問ごとに日付、科目、問題番号、かかった分数、そして「◎(確信あり正解)・○(確信なし正解)・×(不正解)」を書く。週に一度、日曜の夜に、残りの問題数を残りの週の数で割って、翌週に解く数を決めます。会社員は、これを手帳の最後のページに書いていました。1週間に解く数が決まっていると、平日に疲れて1時間しか座れなかった日も、週末で取り返せばいいと分かるので、1日の遅れで気持ちが崩れません。
どの科目から回すかも、配点で決めます。行政書士試験は、行政法が112点、民法が76点で、この二つで300点のうち188点を占めます。会社員は、1周目を行政法と民法の問題集から始め、憲法・商法・基礎知識は後に回しました。配点の小さい科目で1問6分を使い切ると、配点の大きい科目の2周目が削られるからです。どの試験でも、配点の表は試験を実施する団体の案内に出ています。
よくある失敗は二つです。一つは、1周目の途中で「遅すぎる」と焦って、解説を読まずに先へ進むこと。1周目の遅さは、2周目以降を速くするための投資で、ここを削ると2周目の対象が減りません。もう一つは、2周目も全問を解き直すこと。確信を持って正解した問題をもう一度解いても、点は増えません。確信度を記録しておくのは、飛ばしてよい問題を自分で決めるためです。
同じ組み方は、ほかの試験にもそのまま使えます。宅建士試験なら、本試験は1回50問なので、過去10年分で500問。1周目が1問4分なら約33時間、2周目は確信なしと不正解の300問を1問3分で15時間、3周目は150問で7.5時間。3周で約56時間です。宅建士試験では、過去問を回したうえで、法改正の論点と統計の問題を別に押さえる時間が要るので、その分を最後の3週間とは別に取っておきます。問題の数と1問の時間さえ分かれば、どの試験でも「何周回せるか」は紙1枚で出せます。大事なのは、他人の合格体験記の時間ではなく、自分の1周目の2週間の記録から始めることです。
過去問ループは、この周回と確信度の記録を、そのまま道具にしたものです。紙の問題集で、正誤の横に「◎(確信あり)・○(確信なし)・×」を書き込むだけでも、同じ計画は立てられます。資格の選び方の記事と独学と通信講座の記事で、試験を選ぶ段階の話も書いています。
合格の報告に来た会社員は、手帳の7月のページを開いて「600時間と書いたのを見ると、今でも胃が痛くなります」と笑いました。計画は、足りない数字を眺めるためのものではなく、遅れたときに何を削るかを先に決めておくためのものです。数えるのは時間ではなく、残りの周回です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-25
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-25 確認)。
- 行政書士試験研究センター ― 試験日・合格基準・試験科目(毎年の実施要領)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験」 ― 宅建士試験の試験日・実施要領