相続・手続き 2026-09-10
養子縁組と相続 ― 養子は実子と同じ相続人、ただし相続税で数えられるのは一人か二人まで
養子は実子と同じ相続分を持ちます。普通養子と特別養子の違い、孫や連れ子を養子にするときの手続き、養子縁組で法定相続人が増えると基礎控除が増える仕組みと、その数に上限がある理由(実子がいれば一人、いなければ二人まで)、孫養子の相続税2割加算。節税目的の縁組が問題になる場面も含めて整理します。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
「孫を養子にすると、相続税が安くなると聞きました」。78歳の男性が、長男と一緒に相談に来ました。養子にしたいのは、その長男の子、つまり孫です。財産は自宅と預貯金で8,000万円ほど。相続人は長男と、その日は来ていない長女の二人でした。私が最初に聞いたのは「長女さんは、この話をご存じですか」でした。男性は「まだ言っていない」と答えました。この記事は、養子縁組が相続の何を変えるかの話です。税金の話は、その一部にすぎません。
養子縁組は、相続の相談で二つの方向から出てきます。「亡くなった父に養子がいたと戸籍で分かった」という確認の話と、「孫を養子にすれば相続税が減ると聞いた」という対策の話です。どちらも、養子が相続の上でどう扱われるかを知っていれば整理できます。
まず、養子は実子とまったく同じ相続人です。相続分も同じ。相続人の範囲の記事で書いたとおり、子の中で実子と養子を区別することはありません。養子縁組には二種類あり、多くの縁組は「普通養子」で、市区町村に届け出るだけで成立し、養子は実親との親子関係も保ったままです。したがって普通養子は、実親と養親の両方の相続人になります。もう一つの「特別養子」は、原則15歳未満の子について家庭裁判所の審判で成立し、実親との関係が切れて養親だけの子になります。相続でも養親の相続人にだけなります。
| 普通養子 | 特別養子 | |
|---|---|---|
| 成立 | 市区町村への届出(未成年は原則家裁の許可。孫・連れ子は不要) | 家庭裁判所の審判 |
| 対象 | 年齢制限なし(養親より年下) | 原則15歳未満 |
| 実親との関係 | 残る(実親の相続人にもなる) | 切れる(養親の相続人のみ) |
| 離縁 | 協議または裁判で可 | 原則不可 |
未成年者を普通養子にするには家庭裁判所の許可が要りますが、自分や配偶者の直系卑属(孫、配偶者の連れ子)を養子にする場合は許可が不要で、届出だけで成立します。再婚相手の連れ子は、養子縁組をしなければ相続人になりません。「一緒に暮らして育てたのに相続人ではなかった」という相談は、縁組の届出をしていなかった家で起きます。連れ子に相続させたいなら縁組を、縁組しないなら遺言を、というのが実務の助言です。
戸籍で養子が見つかる場面も書いておきます。戸籍の集め方の記事で書いたとおり、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をたどると、家族が知らなかった養子縁組が出てくることがあります。昔の家では、跡継ぎのために親戚の子を養子にする、婿養子を迎える、といった縁組が珍しくなく、その養子や、養子の代襲相続人が相続人に入ります。協議から漏らすと協議は無効なので、戸籍の「養子」「養親」「縁組」の記載は必ず拾ってください。
次に、相続税の話です。基礎控除の記事で書いたとおり、基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、法定相続人が一人増えると600万円増えます。生命保険の非課税枠(500万円×人数)も同じです。だから「養子を増やせば税金が減る」という発想が出ます。これに対して税法は、法定相続人の数に含める養子を、実子がいる場合は一人まで、実子がいない場合は二人までと制限しています。養子が三人いても、基礎控除の計算では一人(または二人)としてしか数えません。民法上の相続分は養子全員に等しくある一方、税法上の数え方には上限がある、という二重構造です。
| 民法(相続分) | 相続税(法定相続人の数) | |
|---|---|---|
| 養子の相続分 | 実子と同じ | ― |
| 数える養子の上限 | なし | 実子がいれば1人、いなければ2人まで |
| 孫養子 | 子として相続 | 受け取る財産の相続税が2割加算(代襲相続人を除く) |
| 連れ子(縁組あり) | 子として相続 | 実子扱い(上限の対象外) |
さらに、孫を養子にした場合、その孫養子が相続で受け取る財産にかかる相続税は2割加算されます(配偶者と一親等の血族以外の人が受け取る場合の加算で、孫養子は代襲相続人でない限りこの対象です)。基礎控除が600万円増える一方で、孫養子の取り分には2割の加算がかかる。差し引きで得かどうかは、財産の額と配分によって変わり、税理士の計算が要る領域です。
節税目的の養子縁組が無効になるか、という問題もあります。2017年の最高裁判例は、節税の動機があっても、縁組をする意思がある限り直ちに無効にはならない、と判断しました。ただし、縁組の意思がまったくなく形だけ、という場合は別です。また、養子縁組は相続人の顔ぶれと相続分を変えるので、既存の相続人(他の子)から見れば自分の取り分が減ります。「孫を養子にした」ことが、あとで兄弟間の争いの火種になる例は少なくありません。税の計算だけでなく、家族に説明できる理由があるかを先に考えてください。
現場の数字を出します。相続人が長男と長女の二人なら、相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×2人で4,200万円。孫を養子にして三人になれば4,800万円で、600万円増えます。8,000万円の財産なら、課税される部分が3,800万円から3,200万円に減る。ここまでが「安くなる」の中身です。ただし、孫養子が受け取る分の相続税には2割の加算がかかります。孫に1,000万円を相続させて、その相続税が仮に100万円なら、120万円になる。基礎控除で減る税と、加算で増える税を、配分ごとに計算しないと、本当に安くなるかは分かりません。私は税理士に計算を頼むよう伝え、その場では概算だけにしました。
もう一つの数字は、税金より効きます。養子縁組をすると、法定相続分が変わります。子二人なら長男と長女が2分の1ずつ。孫が養子に入って子三人になれば、それぞれ3分の1です。長女の取り分は、何もしなくても2分の1から3分の1に減ります。しかも、増えた3分の1は長男の子、つまり長男の家に行く。長女から見れば「兄の家が3分の2を取る仕組み」に見えます。私は紙にこの分数を書いて、「長女さんが最初にこの紙を見たら、どう思うでしょう」と聞きました。男性はしばらく黙って、「怒るだろうな」と言いました。
縁組の手続き自体は簡単です。孫(自分の直系卑属)を養子にする場合、家庭裁判所の許可は要らず、養子縁組届を市区町村に出せば成立します。孫が15歳未満なら、親権者(長男夫婦)が本人に代わって承諾します(代諾)。15歳以上なら、孫本人が届け出ます。書類は一枚です。簡単だからこそ、家族に知らせないまま届が出て、相続のときに戸籍で初めて分かる、ということが起きます。戸籍で「養子」の記載を見つけた長女が、そこから兄と口をきかなくなった例を、私は一件ではなく見ています。
養子縁組は、届出一枚で相続人と相続分を変える、影響の大きい手続きです。縁組をするときも、戸籍で縁組を見つけたときも、その一枚が遺産分割と相続税の両方に効くことを前提に、早めに全員で共有することを勧めています。
この男性は、その日は届を出しませんでした。一か月後に、長女を含めた三人で来て、「税金のためではなく、孫に家を継がせたいから縁組をする。その代わり預貯金は長女に多く」という配分を、遺言に書くことにしました。養子縁組の届は、遺言を公正証書にした翌週に出しました。縁組そのものは一枚の届で済みます。難しいのは、その一枚が誰の取り分を減らすかを、先に本人に伝えることです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-30
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-30 確認)。
- 国税庁 タックスアンサー No.4170「相続人の中に養子がいるとき」 ― 法定相続人の数に含める養子の数(実子がいれば1人、いなければ2人まで)と、実子として扱われる養子
- 国税庁 タックスアンサー No.4157「相続税額の2割加算」 ― 孫養子(代襲相続人を除く)が2割加算の対象になること