離婚・家族 2026-09-12
離婚とペット・家財 ― 法律上は「物」でも、揉めやすい分け方
犬や猫は、法律上は「動産(物)」として財産分与の対象です。子の親権のような法律上の制度はありませんが、実際にはペットの引き取りが感情的に大きな争点になります。誰が飼い続けるかの決め方、面会(に相当する取り決め)、家財道具の分け方、価値の高い動産(車、貴金属、コレクション)の扱いを整理します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
財産分与の一覧表は、預金も家も車も、一時間で決まりました。最後に残ったのが、柴犬の「ハナ」でした。夫は「俺が散歩に行っていた」、妻は「餌も病院も私」。子はいません。一時間で決まった財産の話し合いが、ハナで三時間止まりました。この記事は、法律上は「動産」で、実務では一番揉める、その三時間の話です。
離婚の相談で、財産や親権と同じくらい感情的になるのが、ペットの引き取りです。法律上、ペットは「動産」、つまり物として扱われ、子の親権のような専用の制度はありません。それでも、実務ではペットをめぐる争いは珍しくないので、この記事で扱い方を整理します。
法律上の位置づけから書きます。ペットは財産分与の対象になる動産です。婚姻中に夫婦のどちらかが購入した、または婚姻中に一緒に飼い始めたペットは、共有財産として、財産分与の基本の記事で書いた2分の1の原則の対象になります。ただし、ペットを物理的に「半分に分ける」ことはできないので、実務では、どちらか一方が引き取り、もう一方に金銭的な調整(代償金)を払う、あるいは調整なしでどちらかが引き取る、という形で解決します。
引き取りの判断基準は、法律で決まっているわけではなく、協議で決めます。実務でよく考慮される事情は、婚姻前から飼っていたか(結婚前から飼っていれば、その人の特有財産に近い扱いになりやすい)、主に世話をしてきたのは誰か、離婚後の住環境(ペット可の住居か、留守番の時間、世話をする時間の余裕)、子がいる場合は子の意向と、子がどちらと暮らすか。子の親権と同居する側がペットも引き取る、という形が多いですが、決まりではありません。
「面会」に相当する取り決めも、当事者間で自由に決められます。法律上の面会交流権のような制度はありませんが、離婚協議書に「甲は、月1回、乙宅で犬と面会することができる」といった条項を入れることは可能です。ただし、これは法的な強制力が弱く(動産の所有者が拒否すれば、強制的に会わせる手段は基本的にありません)、あくまで当事者の合意に基づく紳士協定に近い扱いです。飼育費用の分担(エサ代、医療費)を取り決めることも、養育費のような法的な強制力は持ちませんが、協議書に書くこと自体は自由です。
家財道具の分け方も書いておきます。家具、家電、食器といった生活用品は、婚姻中に共有で使っていたものとして、財産分与の対象です。ただし、一つ一つの査定は現実的でないため、実務では「今住んでいる家に残る側がその家財を取得する」「双方が持ち出したもので精算とする」といった大まかな取り決めで済ませることが多いです。結婚前から持っていた家具、相続や贈与で得た家財(相続した実家の家具など)は、特有財産として対象外です。
価値の高い動産には注意が要ります。自動車は、ローンが残っている場合は名義とローンの帰属を一致させる(財産分与の記事で書いた住宅ローンの考え方と同じです)。貴金属、時計、絵画、コレクション(骨董品、フィギュア、楽器など)で価値の高いものは、査定額を確認したうえで一覧に加えます。婚姻中に高額な買い物をした側が「自分のために買ったものだから対象外」と主張することがありますが、婚姻中の収入で購入したものは、原則として共有財産です。
| 事情 | 考え方 |
|---|---|
| 婚姻前から飼っていたか | 結婚前からなら特有財産に近い扱い |
| 主な世話をしてきたのは誰か | 実際の飼育実績を重視 |
| 離婚後の住環境 | ペット可の住居か、世話をする時間の余裕 |
| 子の有無・意向 | 子と同居する側が引き取ることが多い(決まりではない) |
| 価値の高い動産(車・貴金属・コレクション) | 査定額を確認し財産の一覧に加える |
三時間で確かめたことを書きます。ハナは、結婚二年目に夫婦で迎えた犬で、婚姻前から飼っていたわけではなく、共有財産。購入時の価格は28万円、5歳の今の市場価値は評価が難しく、実務では「代償金なし、または少額」で処理することが多い。引き取りの判断で考慮される事情を、一つずつ聞きました。主に世話をしてきたのは、平日の餌と通院は妻、朝夕の散歩は夫、費用は妻の口座から。離婚後の住環境は、夫は会社の近くのペット不可の賃貸に移る予定、妻は実家(一戸建て、庭あり)に戻る。世話の時間は、夫は残業が多く、妻はパートで夕方には帰れる。事情を並べると、引き取りは妻が現実的でした。夫も、住環境の点で、それは分かっていました。
夫が三時間かけて言いたかったのは、「会えなくなるのが嫌だ」ということでした。そこで、協議書に一行足しました。「乙(妻)は、甲(夫)が月1回、乙の自宅でハナと面会することを認める。日時はその都度協議する。ハナの医療費のうち、年5万円を超える部分は甲乙折半とする」。法的な強制力は弱い、と本文に書いたとおりの紳士協定ですが、夫は、この一行で協議書に判を押しました。代償金は、なし。
家財も書きます。この家の家財は、妻が実家に戻るので、大半は夫が住み続ける家に残す、で決めました。妻が持ち出したのは、結婚前から持っていたピアノ(特有財産)と、自分の衣類と本、そして母から相続した食器棚。夫が「食器棚は家のものだ」と言いましたが、妻の母の相続の書類で、相続で得た家財として特有財産と整理。それ以外は「今住んでいる家に残る側が取得」の一文で終わりました。価値の高い動産は、夫の腕時計(購入時60万円、査定25万円)だけで、これは一覧に入れて、夫が取得、25万円の半分を妻の取り分に加算。
最後に、ペットや家財の扱いを軽く見ないことを書いておきます。金額としては小さくても、感情的な比重は大きく、話し合いがまとまらない一因になることがあります。離婚協議書に書くことの記事で書いた条項の順番に、ペットと家財の一行を加え、引き取る側、代償の有無、面会の取り決め(あれば)を明記しておく。それだけで、離婚後に「あの子(ペット)はどうなった」という蒸し返しを防げます。
一時間で決まった一覧表と、三時間かかったハナ。ハナの一行は、代償金ではなく、月1回の面会と、医療費の折半でした。「ペットや家財の扱いを軽く見ない」と本文の最後に書いた理由は、この三時間です。三時間の中身は、法律の話ではなく、夫が「会えなくなるのが嫌だ」と言えるまでの時間でした。言えたあとは、一行で終わりました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。