相続・手続き 2026-10-25
亡くなった親の個人向け国債 ― 1年たっていなくても換金できる。受け取る額と、相続税の評価の決まり方
個人向け国債は、原則として発行から1年たたないと換金できません。ただ、持ち主が亡くなった場合は、その期間中でも相続人が換金できます(財務省)。受け取る額は「額面+経過利子−中途換金調整額」で、手数料はかかりません。相続税の評価も、亡くなった日に換金したら受け取れる額で考えます(国税庁)。額面300万円・買って7か月の例で、受け取る額と、相続人の口座に移すか換金するかの決め方を書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → [名義を変える・税金(10か月〜3年)] → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
母の遺品を整理していた50代の女性が、相談に持ってきたのは、銀行から届いた「国債の取引報告書」でした。個人向け国債、変動10年、額面300万円。買ったのは亡くなる7か月前です。「満期まで10年も待つしかないんでしょうか。それに、相続のときはいくらで数えるんですか」。
個人向け国債は、国が個人のために出している国債です。種類は変動10年、固定5年、固定3年の三つ。銀行や証券会社、郵便局で1万円単位で買え、紙の券はなく、口座の記録として持ちます。利子は半年ごとに、持ち主の預金口座に振り込まれます。
三つの種類のうち、変動10年は半年ごとに利率が見直され、固定5年と固定3年は満期まで利率が変わりません。どの種類にも「年0.05%」という最低の利率が決まっていて、市場の金利がどれだけ下がっても、それより下にはなりません。報告書に書いてある種類と回号(何回目に発行されたものか)を、まず控えてください。手続きの書類に、その二つを書く欄があることが多いからです。
途中で現金に戻すことを「中途換金」と言います。原則として、発行から1年たつまでは換金できません。けれど財務省は例外を二つ定めています。一つは災害救助法が適用された大きな災害で被害を受けたとき。もう一つが、口座の持ち主が亡くなったときです。この場合は、換金できない期間でも、相続人が換金を申し込めます。手数料はかかりません。
受け取る額は、「額面+経過利子−中途換金調整額」で決まります。経過利子は、前回の利払い日から換金の日までにたまった利子のこと。中途換金調整額は、途中でやめる代わりに差し引かれる分で、原則は直前2回分の利子(税引前)に0.79685を掛けた額です。0.79685は、利子にかかる税金20.315%を引いた割合なので、「税引き後の利子2回分」と考えると分かりやすいです。換金の時期によって式が少し変わり、初回の利払いから2回目の利払いまでの間なら、差し引かれるのは「初回の利子×0.79685」と「経過利子」です(財務省の計算式)。
相続税ではいくらで数えるか。国税庁は、亡くなった日に中途換金したとすれば受け取れる額で評価する、という考え方を示しています。株や上場している債券のように市場の値段で数えるのではありません。いつでも決まった式で換金できる、という個人向け国債の性質に合わせた扱いです。
この家の数字を書きます。額面は300万円。利率は仮に年0.8%(税引前)として計算します。半年分の利子は、300万円×0.8%÷2で1万2,000円。税引き後は、1万2,000円×0.79685で9,562円(1円未満切り捨て)です。買って7か月なので、初回の利子はもう母の口座に振り込まれていて、2回目の前に亡くなりました。
この時期の換金では、差し引かれるのは初回の利子の税引き後9,562円と、経過利子です。経過利子は受け取る側にも足されるので、打ち消し合います。結果、受け取る額は300万円から9,562円を引いた299万438円。母の口座に入っていた初回の利子9,562円と合わせると、ちょうど300万円です。早く換金すると、それまでの利子は返す形になり、元本は守られる。個人向け国債の「元本割れしない」という性質は、相続のときもそのままです。相続税の評価も、亡くなった日を基準に同じ式で計算します(この例では、ほぼ299万円)。
左から、購入(額面300万円)、6か月後に初回の利子(税引き後9,562円)が母の口座に入る、7か月で亡くなる、相続人が換金。換金で受け取る額は300万円から初回の利子の税引き後9,562円を引いた299万438円で、すでに入った利子と合わせると300万円になる。
利率は計算のための仮の数字で、初回の利子の調整額は考えていません。経過利子は足す側と引く側の両方に入るので打ち消し合います。相続税の評価も、亡くなった日に換金したとすれば受け取れる額です。
相続人がやることは三つです。一つ目、国債がどこの口座にあるかを確かめること。取引報告書や、金融機関から届く残高のお知らせ、通帳に半年ごとに入る利子らしい入金が手がかりになります。二つ目、その金融機関に連絡し、相続の手続きの書類を聞くこと。財務省は、相続人であることを証明する書類が必要で、手続きは金融機関によって違う、としています。多くの場合、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍、遺産分割協議書か相続人全員の同意書、印鑑証明書を求められます。法定相続情報一覧図があれば、戸籍の束の代わりに使えることがあります。三つ目、換金するか、相続人の口座に移して持ち続けるかを決めることです。
換金したお金は、誰が受け取るのか。国債は遺産分割の対象になる財産なので、多くの金融機関は、相続人全員が合意したことを示す書類(遺産分割協議書か、相続人全員の署名と実印のある同意書)を求めます。相続人の一人が、ほかの相続人に黙って換金を申し込み、自分の口座に入れてもらう、ということは通常できません。換金の前に、誰がいくら受け取るかを決めておくのが順番です。
決め方の目安です。相続人が複数いて、預金と合わせてお金で分けるなら、換金して現金にする方が分けやすい。相続人の一人が受け継いで、そのまま満期まで持つなら、その人の口座に移す方法もあります。移す場合は、その相続人が同じ金融機関に口座を持っている必要があることが多いので、先に確認してください。女性の家では、相続人が二人で、預金と合わせて半分ずつ分けることにしたため、換金を選びました。
| 換金する | 相続人の口座に移す | |
|---|---|---|
| 向く場面 | 相続人が複数で、お金で分ける | 一人が受け継いで満期まで持つ |
| この家の例で受け取る額 | 299万438円(手数料なし) | 額面300万円のまま持ち続ける |
| 気をつけること | 相続人全員の同意の書類が要ることが多い | 同じ金融機関に口座が要ることが多い |
もう一つ、利子の振込先にも気をつけてください。持ち主の口座が凍結されていると、亡くなったあとの利子の行き先で手続きが止まることがあります。国債の手続きと預金の手続きは、同じ金融機関でも窓口が別のことがあるので、一度にまとめて聞いておくと二度手間になりません。
国債は、預金に比べて見落とされやすい財産です。通帳には利子の入金しか出てこず、残高は別の取引報告書でしか分からないからです。亡くなった人の口座を探す記事に書いた方法で金融機関を一通り洗い出したら、預金だけでなく「国債や投資信託の取引もありますか」と一言聞いてください。母の家でも、国債の報告書は郵便物の束の中に紛れていて、もう少しで捨てるところでした。
相続税の申告が要るかどうかは、遺産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)を超えるかで決まります。申告や評価の最終的な判断は税理士の仕事ですが、国債の額は「換金したらいくら」で数える、と知っておくだけで、遺産の一覧は作り始められます。
申告が要りそうなときは、金融機関に、亡くなった日現在の残高証明書を頼んでください。個人向け国債の残高証明書には、額面だけでなく、その日に換金したとすれば受け取れる額(評価に使う額)が書かれていることが多く、税理士に渡す資料としてそのまま使えます。発行には手数料がかかる金融機関が多いので、預金の残高証明書と一緒に頼むと手間も費用もまとめられます。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-25
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-25 確認)。
- 財務省「個人向け国債 Q&A(中途換金について)」 ― 中途換金できない期間でも口座名義人が亡くなった場合は換金できること、相続人による換金には相続人の地位を証明する書類が要ること、換金の時期ごとの中途換金調整額の計算式(0.79685を掛ける)
- 国税庁 質疑応答事例「個人向け国債の評価」 ― 相続税の評価は、課税時期に中途換金した場合に取扱機関から支払を受けられる価額(額面金額+経過利子相当額−中途換金調整額)