相続・手続き 2026-10-23
亡くなった人の口座がどこにあるか分からない ― 通帳と郵便物から当たりをつけ、マイナンバーの「相続時口座照会」で残りを拾う
父の遺品から出てきたのは通帳2冊とキャッシュカード1枚。それで全部かが分からず、遺産分割の話を始められずにいた家の相談から書きます。通帳・郵便物・年金の振込口座・スマートフォンのアプリからの当たりのつけ方、銀行ごとの残高証明と取引履歴、口座管理法による預金保険機構の相続時口座照会(マイナンバーを付けた口座だけが対象、手数料5,060円、1か月程度、残高は出ない)を使う順番と、4つ目の口座が見つかった家の数字を書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
「父の財布と机から出てきたのは、通帳2冊とキャッシュカード1枚です。でも、これで全部なのかが分からなくて」。80代の父親を亡くした50代の長女が、ファイルを抱えて相談に来ました。弟と二人で遺産を分けるつもりですが、あとから口座が出てくると、分け方をやり直すことになりかねない。それが怖くて、話を始められずにいました。
口座探しは、家の中の手がかりから始めます。通帳とキャッシュカードのほか、銀行から届く郵便物(取引残高のお知らせ、定期預金の満期の案内、年賀状やカレンダー)、年金の振込通知書(年金が入る口座が分かります)、電気やガスの引き落としの明細、確定申告書の控え(還付金の振込先)。最近はネット銀行が増えたので、スマートフォンのアプリやメールの受信箱も手がかりになります。財産全体の探し方は、遺産の調べ方と財産目録の記事に書きました。
当たりがついた銀行には、相続人として連絡し、亡くなった日の残高証明書と、必要なら取引履歴を出してもらいます。亡くなった人の戸籍(出生から死亡まで)と、請求する人が相続人だと分かる戸籍、本人確認の書類が要ります。法定相続情報一覧図の写しがあれば、戸籍の束の代わりに使えて、何行回っても楽です。
それでも「ほかにも口座があるのでは」という不安は残ります。そこで使えるのが、口座管理法(2021年5月公布)にもとづく預金保険機構の「相続時預貯金口座照会」です。相続人が金融機関の窓口で申し込むと、預金保険機構が、亡くなった人のマイナンバーを使って金融機関に照会し、口座がある金融機関の名前・支店・預金の種類・口座番号を、まとめて知らせてくれます。
左に相続人。相続人から金融機関の窓口へ「申込み(手数料5,060円)」の矢印。窓口から預金保険機構へ。預金保険機構は住基ネットで亡くなった人のマイナンバーを取り、各金融機関に照会する。マイナンバーを付けていた口座だけが見つかる。約1か月後、相続人に金融機関名・支店・種類・口座番号の通知が届く。残高は含まれないので、銀行ごとに残高証明書を取る。
2026年10月時点の預金保険機構の案内による。手数料は1回5,060円(税込)で、口座が無くても原則返金されません。照会できるのは死亡から10年までです。
使う前に、限界を知っておきます。一つ目、対象は亡くなった人が生前に自分でマイナンバーを付けた口座だけです。付けていない口座は、この照会では出てきません。二つ目、知らせてくれるのは口座のありかで、残高は出ません。残高はその後、銀行ごとに残高証明書を取ります。三つ目、照会できるのは死亡から10年までです。四つ目、手数料は1回5,060円(税込、2026年10月時点の預金保険機構の案内)で、口座が一つも見つからなくても原則として返ってきません。申込みから通知まで1か月ほどかかり、通知は転送されない簡易書留で届きます。
申込みの窓口は、亡くなった人と取引の無かった金融機関でもかまいません(預金保険機構から受付を任されている金融機関に限ります)。マイナンバーは預金保険機構が住民基本台帳ネットワークから取るので、相続人が亡くなった人のマイナンバーを探す必要はありません。ただし、申込書に書く亡くなった人の氏名・住所・生年月日は、出す書類(戸籍の附票の除票の写しなど)の記載どおりに書きます。ここがずれると、照会そのものができずに終わることがあります。
順番は、家の中の手がかりで分かった口座の残高証明を先に頼み、並行して照会を申し込む、が使いやすい形です。相続放棄をするかどうかを決める期限(亡くなったことを知ってから3か月)があるので、1か月待ってから動き出すのでは遅くなりがちです。残高証明を待つ間に照会の結果が届けば、二つを並べて、漏れが無いかを一度に確かめられます。
この家では、通帳2冊は地元の信用金庫とゆうちょ銀行、カードは地方銀行のものでした。三つの残高証明を頼みながら、信用金庫の窓口で照会を申し込みました。1か月後の通知には、四つ目として、ネット銀行の口座が載っていました。父親が数年前に作り、口座を開くときにマイナンバーを届けていたものでした。残高は、信用金庫320万円、ゆうちょ銀行85万円、地方銀行41万円、ネット銀行63万円で、合わせて509万円。照会の手数料5,060円で、63万円の口座が見つかった計算です。
| 口座 | どこから分かったか | 残高 |
|---|---|---|
| 信用金庫 | 通帳 | 320万円 |
| ゆうちょ銀行 | 通帳 | 85万円 |
| 地方銀行 | キャッシュカード | 41万円 |
| ネット銀行 | 相続時口座照会の通知 | 63万円 |
| 合計 | 509万円 |
見つからないこともあります。古い口座でマイナンバーを付けていないものは、照会には出ません。長く使っていない口座は休眠預金になっていることがありますが、休眠預金になっても、銀行に請求すれば払い戻しを受けられます。照会の結果が「口座なし」でも、それは口座が無いことの証明ではない、と預金保険機構も書いています。照会は、家の中の手がかりの代わりではなく、その後ろに張る網です。
申し込める人は、相続人と、遺言で財産の全部や割合で受け取ると決められた人(包括受遺者)です。窓口では、所定の申込書と、個人情報を預金保険機構などに渡すことへの同意書を書き、相続人であることが分かる書類を出します。受け付けたあとは、原則として取消しや訂正ができず、手数料も戻りません。通知は申込書に書いた国内の住所に、転送されない簡易書留で届くので、1か月のうちに引っ越す予定があるなら、申込みの時期や通知先を考えます。
ネット銀行は、通帳もカードも無いことが多く、手がかりはスマートフォンやパソコンの中にあります。ロックが解けなくても、パソコンで開けるメールの受信箱、クレジットカードの明細の引き落とし口座、確定申告書の還付口座から見つかることがあります。この家の四つ目も、あとで父親のパソコンのメールに、口座を開いたときの案内が残っていました。
口座が見つかったあとにも、順番があります。銀行は、名義人が亡くなったと知るとその口座の出し入れを止めます(凍結)。電気や水道の引き落としも止まるので、引き落とし先を早めに切り替えます。葬儀の費用などで急いでお金が要るときは、遺産分割の前でも、一つの銀行から一定の額まで払い戻せる制度があり、口座の凍結と仮払い制度の記事に書きました。
この照会で分かるのは、銀行やゆうちょ銀行、信用金庫などの預貯金の口座です。証券会社の口座は証券保管振替機構(ほふり)への開示請求、生命保険は生命保険協会の照会制度と、窓口が別にあります。この家では、照会の5,060円と残高証明書の手数料を遺産から払った費用として扱い、残りを長女と弟で分けました。
遺産分割協議書には、分かった口座を全部書き、「本書に記載のない財産が見つかったときは、長女が取得する」のように、あとから出てきた財産の行き先を一行決めておくと、やり直しを防げます。この家もそう書いて、照会の通知書の写しを協議書と一緒に保管しました。照会の通知書と残高証明書は、相続税の申告や、あとでほかの相続人から財産の範囲を聞かれたときの説明にも使えるので、原本を手元に残しておきます。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-23
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-23 確認)。
- 預金保険機構「口座登録法及び口座管理法に基づく業務」 ― 口座管理法(2021年5月19日公布)に基づき、相続時に相続人から求められた場合、マイナンバーを用いて金融機関に照会し、口座情報を通知する
- 預金保険機構「相続時預貯金口座照会のお申込みにあたって(参考)」 ― 対象は被相続人が生前にマイナンバーを付けた口座に限る。死亡後10年まで。取引の無い金融機関の窓口でも申込み可(委託先に限る)。手数料1件5,060円(税込)、口座が無くても原則返金なし。通知まで1か月程度。通知は金融機関名・支店名・種類・口座番号で、残高は含まない