相続・手続き 2026-09-09
相続関係説明図の書き方 ― 戸籍の原本を返してもらうための一枚、一覧図との違い
相続登記の申請に添えると、戸籍の原本を返してもらえる「相続関係説明図」。法定相続情報一覧図と何が違うのか、何を書いて何を書かないのか、代襲相続・数次相続・相続放棄の表し方、手書きでもいいのか。本人申請の人が最初につまずく一枚を、記載例つきで整理します。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
法務局の窓口で、申請書を出した男性が、戸籍の束を指して聞かれました。「相続関係説明図は付けていますか」。付けていない。「では、戸籍の原本はお返しできませんが、よろしいですか」。男性は、その戸籍を翌週、銀行に持っていく予定でした。窓口で「一度持ち帰って、図を付けて出し直します」と答え、その日の申請は取りやめ。家に帰って、A4一枚に家系図を手書きし、翌日出し直して、登記完了後に戸籍は全部戻ってきました。この記事は、その一枚の話です。
相続登記を本人で申請しようとすると、法務局の案内に「相続関係説明図」という言葉が出てきます。法定相続情報一覧図と似ていて混乱しやすいので、まず違いから書きます。
相続関係説明図は、申請人が自分で作る家系図です。法務局の認証はなく、様式も自由で、手書きでも構いません。役割は一つ、相続登記の申請に添えると、提出した戸籍の原本を登記完了後に返してもらえる(原本還付)ことです。戸籍は銀行や証券会社でも使うので、返してもらえるかどうかで手間が大きく変わります。
法定相続情報一覧図は、別の記事で書いたとおり、法務局が戸籍と照合して認証する図です。一覧図があれば戸籍の束そのものを出さずに済むので、相続関係説明図は不要になります。つまり、一覧図を取るなら説明図は要らず、一覧図を取らずに戸籍の束で登記するなら説明図を添える、という関係です。相続登記だけで、金融機関の手続きが無い、あるいは少ない場合は、一覧図を取らずに説明図で済ませる人も多いです。
| 相続関係説明図 | 法定相続情報一覧図 | |
|---|---|---|
| 作る人 | 申請人が自作 | 申請人が作り、法務局が認証 |
| 様式 | 自由(手書き可) | 法務局のひな形に従う |
| 費用 | 0円 | 0円(写しは何通でも無料) |
| 役割 | 相続登記で戸籍原本を返してもらう | 戸籍の束の代わりに各手続き先へ出せる |
| 向く場面 | 手続き先が法務局だけ | 金融機関など手続き先が複数 |
書く内容は、被相続人(亡くなった人)の氏名・生年月日・死亡日・最後の本籍と住所、相続人の氏名・生年月日・続柄、そして被相続人と相続人を線でつないだ関係です。不動産を取得する相続人には「相続」、取得しない相続人には「分割」(遺産分割で取得しないことを示す)と書き添えるのが実務の慣行です。不動産を取得する相続人の住所は、登記に必要なので書きます。
表し方の要点を三つ。代襲相続がある場合は、先に亡くなった子を書き、その下に代襲する孫を線でつなぎ、亡くなった子には死亡日を書きます。数次相続(被相続人の死後に相続人が亡くなった)の場合は、一枚に無理に収めず、被相続人ごとに図を分けるか、二段目の相続人を「〇〇の相続人」として明示します。相続放棄をした人は、図には載せたうえで「放棄」と書き、家庭裁判所の相続放棄申述受理証明書を添付します。放棄した人も図に載せて「放棄」と書いておくと、登記官が戸籍と照らし合わせるときに、相続人が抜けているのではないと分かります。
様式は自由ですが、法務局は登記官が戸籍と照合しやすい図を求めています。A4一枚に、被相続人を上か左に置き、配偶者を横に、子を下に並べる。用紙の右上か下に「相続関係説明図」と題を付け、作成日と申請人の氏名を書く。これで足ります。ワープロで作っても手書きでも構いません。
一覧図との使い分けを、実務の目安で書いておきます。手続き先が法務局だけなら説明図。金融機関が二つ以上あるなら一覧図(一覧図を取れば説明図は不要)。相続人が多い、数次相続がある、といった複雑な関係なら、法務局に戸籍の読み取りを確認してもらえる一覧図のほうが安全です。どちらにしても、図を書く作業そのものが、相続人の見落としに気づく最後の機会になります。戸籍を全部並べて、一人ずつ図に落としていってください。
その男性が書いた図を、そのまま書きます。用紙の上に「被相続人 〇〇〇〇 相続関係説明図」と題。左上に被相続人の氏名、生年月日、死亡日(令和8年3月2日)、最後の本籍、最後の住所。その右に二重線でつないで配偶者(母)、氏名と生年月日と住所、そして「相続」。下に線を引いて、子二人。長男(男性本人)に「分割」、長女に「相続」。今回の相続では、自宅を母と長女が持分2分の1ずつで取得し、長男は取得しない、という協議だったので、長男が「分割」です。右下に作成日と、申請人として長女の氏名。これで、登記官が戸籍と照合して、相続人に漏れがないことを確認し、原本を返す判断ができます。
手書きで足りる、という点は、実際に足りました。ワープロでなくてよく、線が定規で引いてあれば十分。法務局が見ているのは、見た目ではなく、戸籍に載っている人が全員図に載っているか、続柄と生年月日が戸籍と一致しているか、です。この男性の場合、母の生年月日を一日間違えて書いていて、窓口でその場で訂正印を押して直しました。図は自分で作る書類なので、その場で直せる。認証のある一覧図なら、取り直しになるところです。
図を書く作業で相続人の見落としに気づく、と本文に書きましたが、実例を一つ。別の相続で、被相続人の出生からの戸籍を並べて図に落としていったところ、最初の婚姻で生まれた子が一人いることが、除籍謄本の三通目で分かりました。その子は、今の家族が誰も存在を知らなかった相続人です。図に落とす前に協議書を作っていたら、その協議書は相続人が一人欠けていて無効でした。図の役割は原本還付だけではなく、この「一人ずつ図に落とす」作業そのものが、最後の検算です。
当サイトの相続登記ナビは、被相続人の名前、配偶者の有無、子の名前を入力すると、配偶者と子を並べた相続関係図(法定相続分つき)を表示します。生年月日や住所、誰が取得するか(「相続」「分割」の書き分け)は表示しないので、そこは戸籍と協議の内容を見て書き足してください。手書きで図にする前の下書きに使ってください。
窓口で出し直した男性の図は、手書きの、罫線入りのA4一枚でした。それで戸籍は全部戻り、翌週の銀行の手続きに間に合いました。「様式は自由」と本文に書いたのは、法務局がそう定めているからで、実際に、罫線入りの手書きで通っています。図を書く時間は、三十分。原本を返してもらう価値は、戸籍一式の取り直し(この家では11通、約7,000円と二週間)です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。