学び・資格 2026-09-30
試験に出る法律は「4月1日現在」 ― 法改正の年に、古い教材のどこを直すか
宅建士試験も行政書士試験も、その年の4月1日現在で施行されている法令から出題します。見るべきは成立や公布ではなく「施行」の日です。2026年度なら、4月1日施行の家族法の改正と住所変更登記の義務化は範囲に入り、6月に成立した成年後見の見直しは入りません。去年の教材を買い直さずに直す手順と、かかった時間を書きます。
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「去年のテキストで勉強しているんですが、今年は民法が変わったと聞いて、全部買い直すべきか迷っています」。行政書士試験を受ける知人から、6月にそう聞かれました。私の答えは「買い直す前に、4月1日を見てください」でした。
資格試験は、どの時点の法律で出題するかを決めて公表しています。行政書士試験は、試験案内に「令和8年4月1日現在施行されている法令に関して出題」と書いています。宅建士試験も、出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです。2026年度の試験は、宅建士が原則どおり10月の第3日曜日なら10月18日、行政書士が11月8日。4月1日から試験日までの半年あまりの間に法律が変わっても、その年の試験には出ません。
ここで大事なのは、「成立」でも「公布」でもなく「施行」だということです。法律は、国会で成立し、公布され、決められた日に施行されて、初めて効力を持ちます。成立から施行までは、1年から数年あくことがよくあります。ニュースになるのは成立の日なので、「法律が変わった」と聞いた年に、その改正が試験に出るとは限りません。反対に、何年も前に成立した改正が、施行の年になって初めて試験の範囲に入ることもあります。
2026年の例で見ます。離婚後の共同親権、法定養育費、財産分与を請求できる期間の2年から5年への延長などを含む家族法の改正は、2026年4月1日に施行されました。4月1日現在で施行されているので、2026年度の試験の範囲です。不動産登記の住所変更登記の義務化も2026年4月1日の施行で、範囲に入ります。一方、2026年6月に成立した成年後見の見直し(後見と保佐を補助に一本化し、必要がなくなれば終わらせられるようにするもの)は、公布から2年6か月以内の施行とされていて、2026年度の試験には出ません。
2026年の時間の線。4月1日に縦の線。その左側(4月1日までに施行)に、家族法の改正と住所変更登記の義務化があり、2026年度の試験に出る。右側の6月に成立した成年後見の見直しは、まだ施行されていないので出ない。右端に10月18日の宅建士試験と11月8日の行政書士試験。
見るのは成立や公布の日ではなく、施行の日です。
試験によって、同じ改正の重さも違います。住所変更登記の義務化は不動産登記法の話なので、宅建士試験の権利関係では範囲に入りますが、行政書士試験の科目(憲法・行政法・民法・商法・基礎法学と基礎知識)には不動産登記法がありません。知人が受けるのは行政書士試験なので、直す必要があるのは家族法の改正だけでした。改正の一覧を作ったら、自分の試験の科目にあるかどうかで、まず半分に絞れます。
直し方は、三段にしました。一段目は、その年の4月1日までに施行された改正を一覧にすることです。試験団体の案内、法務省の改正の案内、教材の出版社が出している法改正の情報を見れば、試験に関係する改正はほとんど拾えます。一覧は、改正の名前、施行日、自分の試験の科目にあるか、の三列で足ります。二段目は、一覧の改正ごとに、テキストの該当ページに付箋を貼り、余白に改正後の内容を一行で書き込むことです。財産分与のページなら「請求は離婚から5年(2026年4月1日〜)」。条文の読み方の記事で書いたように、改正は要件か効果のどちらかが変わるので、どちらが変わったかを書いておくと、覚える量が増えません。付箋の色を一つに決めておくと、直前期に改正の箇所だけを拾い読みできます。
三段目が、過去問です。過去問は、出題された年の法律で作られています。改正前の法律で作られた肢は、今年の法律で読むと正誤が逆になることがあります。一肢ずつ○×にする勉強法で回している人は、その肢に「改正で正誤が変わった」という印を付けて、普段の正誤の記録とは分けておきます。過去問ループのように確信度を記録して回す道具を使っている場合も、この印の付いた肢は、迷いの記録ではなく、改正点の確認に使うほうが役に立ちます。
宅建士試験を受ける人なら、住所変更登記の義務化で覚える数字は二つです。住所などが変わってから2年以内に申請すること、正当な理由なく怠れば5万円以下の過料の対象になること。すでに義務になっている相続登記の「知った日から3年以内・10万円以下の過料」と一つの表に並べておくと、年数と金額を取り違えません。数字の表で覚えるやり方は、宅建業法の攻め方と同じです。
施行日を確かめるいちばん確かな方法は、e-Gov法令検索で条文を開くことです。条文には施行日ごとの版があり、まだ施行されていない改正は、未施行のものとして区別されています。教材の追補とニュースで言っていることが食い違ったら、e-Govの版の日付を見ます。4月1日の時点で効いている版が、その年の試験の条文です。
逆に、時間を使わなくていいものもあります。4月2日以降に施行される改正と、成立しただけでまだ施行されていない改正です。ニュースで見た改正が気になっても、その年の試験では古い法律で答えます。直前期に新しい法律を覚え、試験で古い法律の肢に迷うのが、いちばんもったいない失点です。
来年以降に受ける人は、同じ一覧を毎年4月1日で引き直します。2026年6月に成立した成年後見の見直しは、施行日が政令で決まります。その日が2027年4月1日までに来れば2027年度の試験の範囲に入り、来なければ入りません。施行日が発表されたら、一覧のその行に日付を書き足す。改正の情報は、ニュースの見出しの日付ではなく、施行日で管理するのがこつです。
| 作業 | 内容 | 時間 |
|---|---|---|
| 改正の一覧を作る | 4月1日までに施行、自分の科目にあるものだけ | (試験案内と法務省の案内を見るだけ) |
| テキストに書き込む | 4項目の該当ページに付箋と一行 | 2時間 |
| 過去問に印を付ける | 改正で正誤が変わる肢を探す | 2時間 |
| 改正後の条文を読む | 一度通して読む | 1時間 |
| 合計 | 5時間 |
知人の場合の時間を書いておきます。家族法の改正のうち、行政書士試験の民法に関係する項目は四つ。親権(共同親権と単独親権)、法定養育費、財産分与の請求期間、親子交流(面会交流)の見直しです。テキストの該当ページを探して付箋と書き込みをするのに合計2時間、過去問で該当する肢を探して印を付けるのに合計2時間、改正後の条文を一度通して読むのに1時間。合わせて5時間でした。付箋に書いた一行は、たとえば「親権:離婚のとき父母の協議で共同か単独かを決める。決まらなければ家庭裁判所」「法定養育費:取り決めがなくても、子一人あたり月2万円(法務省令)」です。テキストを買い直して読み直すより、ずっと短い時間です。
試験の年に法律が変わると、教材が全部古くなったような気がします。けれど、試験が見ているのは4月1日の一日だけです。その日までに施行された改正を一覧にし、自分の科目にあるものだけを直す。買い直すかどうかは、一覧を作ってから決めても遅くありません。知人は、去年のテキストのまま、付箋を二十枚ほど増やして試験に向かいました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-02
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-02 確認)。
- 行政書士試験研究センター 試験のご案内 ― 令和8年度は11月8日実施、法令は令和8年4月1日現在施行されている法令に関して出題
- 不動産適正取引推進機構 宅建試験の概要 ― 出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているもの。試験は原則10月の第3日曜日
- 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について ― 2026年6月17日成立・24日公布。後見・保佐を補助に一元化。成年後見の見直しは公布の日から起算して2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日に施行
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」 ― 2026年4月1日施行。法定養育費は子1人あたり月2万円(法務省令)