離婚・家族 2026-09-12

離婚と会社の手続き ― 社会保険の扶養、税の扶養控除、勤務先への届出

離婚は、勤務先を通じた社会保険と税金にも影響します。配偶者の扶養に入っていた人が外れる手続き、逆に離婚後に自分の扶養に子を入れる手続き、年末調整と扶養控除の変更、住民税の異動、社宅や家族手当への影響、そして勤務先にどこまで伝えるか。離婚後の手続きの記事の続きとして、会社を通す手続きに絞って整理します。

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この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → [離婚が成立したら] → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)

離婚から七か月後、健康保険組合から男性に手紙が来ました。「元配偶者が資格喪失後に受診した医療費のうち、組合負担分約18万円を返還してください」。男性は離婚のとき、市役所で届は出したが、勤務先には何も言っていませんでした。元妻は自分の保険証をそのまま使い続けていた。返還の請求先は、被保険者である男性です。「離婚の手続きは全部やったつもりでした」。市役所での手続きは、勤務先での手続きの半分にすぎません。この記事は、その残りの半分の話です。

離婚後の手続きの記事で、市区町村や年金事務所での手続きを書きました。この記事は、その中でも「勤務先を通す」手続きに絞ります。多くの人が見落とすのが、この会社経由の手続きです。

一つ目、社会保険の扶養から外れる・入れる手続きです。配偶者の勤務先の健康保険の扶養に入っていた人は、離婚で扶養の要件(生計を一にする配偶者であること)を満たさなくなるので、相手の勤務先に「被扶養者異動届」を出してもらい、扶養から外れます。同時に、自分で国民健康保険に入るか、自分の勤務先の健康保険(就労していれば)に入ります。逆に、離婚後に子を自分の扶養に入れる場合、自分の勤務先に「被扶養者異動届」を出し、子の続柄と収入の要件を確認してもらいます。年金の第3号被保険者だった人の種別変更も、離婚後の手続きの記事で書いたとおり、市区町村で別に行います。

二つ目、税金の扶養控除です。年の途中で離婚した場合、その年の年末調整や確定申告での扶養控除の扱いが変わります。子を扶養親族にできるのは、原則としてその年の12月31日時点で生計を一にしている親(多くは監護している親)です。養育費を払っている非監護親も、一定の要件(生活費の相当部分を負担している、など)を満たせば扶養控除を主張できる場合がありますが、実務では監護親が扶養控除を受けることが多く、二重に控除を受けることはできません。離婚した年は、勤務先に年末調整の「扶養控除等申告書」を出し直す必要があります。ひとり親になった場合、要件を満たせば「ひとり親控除」(所得税・住民税の控除)が使えるので、これも申告書に反映します。

三つ目、住民税です。住民税は前年の所得に基づいて課税されるので、離婚した年の翌年に、離婚前の世帯構成を前提にした税額の通知が来ることがあります。ひとり親控除や扶養親族の異動を、翌年の申告(年末調整または確定申告)で正しく反映させないと、税額の計算がずれます。

四つ目、氏名と口座の変更です。婚姻中の氏で働いていた人が離婚で氏を変える場合、勤務先に届け出て、給与振込口座、社会保険、雇用保険、源泉徴収票の氏名、名刺、メールアドレスなどを順に変更します。氏を変えず婚姻中の氏を続ける場合は、離婚後の手続きの記事で書いた「離婚の際に称していた氏を称する届」を出し、勤務先には変更がないことを伝えれば足ります。

五つ目、住宅手当・家族手当・社宅への影響です。配偶者や子を対象にした家族手当(扶養手当)は、離婚で配偶者分がなくなり、子を扶養する側は子の分を引き続き受けられることが多いですが、会社の規程によります。社宅に配偶者と住んでいた場合、離婚後の入居資格(単身者用への切り替え、退去期限)を人事に確認してください。

会社を通す手続きの一覧
手続き誰がどこへ
扶養から外れる(被扶養者異動届)扶養に入っていた側相手の勤務先の健康保険組合
子を扶養に入れる(被扶養者異動届)監護親自分の勤務先
年末調整の扶養控除等申告書の出し直し本人自分の勤務先
ひとり親控除の反映要件を満たす人年末調整または確定申告
氏名・口座・源泉徴収票の変更氏を変えた側自分の勤務先
家族手当・社宅の見直し該当する側自分の勤務先(人事・総務)

勤務先にどこまで伝えるかは、法律の話ではなく実務の判断です。社会保険と税金の手続きに必要な範囲(扶養の異動、氏名の変更)は伝える必要がありますが、離婚の理由や経緯まで伝える義務はありません。人事や総務の窓口では、手続きに必要な事実(いつ離婚したか、扶養家族がどう変わるか)だけを伝えれば、事務手続きは進みます。

現場の整理です。男性がやっていなかったのは三つでした。一つ、健康保険の被扶養者異動届。離婚の日で元妻は被扶養者の資格を失うので、勤務先経由で組合に届け出て、元妻の保険証を返す必要がありました。届が出ていないと、組合は元妻をまだ扶養家族として扱い、元妻の受診分を払い続けます。あとで分かれば、資格喪失日にさかのぼって、組合が払った分を被保険者に返還請求します。18万円は、その七か月分でした。男性は元妻に連絡し、元妻が国民健康保険に加入したうえで、国保から組合へ払い直す手続き(療養費の請求)で、最終的に男性の持ち出しはなくなりましたが、三か月かかりました。

二つ、家族手当。会社の規程で配偶者分が月1万円、子の分が月5,000円出ていました。離婚で配偶者分はなくなり、子は元妻が親権者で同居しているので、子の分も対象外。七か月分の配偶者手当7万円と子の手当3万5,000円が、翌月の給与から差し引かれました。三つ、年末調整。離婚した年の扶養控除等申告書を出し直していなかったので、元妻を控除対象配偶者としたまま年末調整が終わり、年が明けてから会社の経理から連絡が来て、再年末調整で追加の所得税を納めました。

逆の例も一つ。子を引き取った女性が、離婚の翌年に確定申告をしていなかった件です。彼女はパートで年末調整は勤務先がしていましたが、扶養控除等申告書に「ひとり親」の欄があることを知らず、ひとり親控除(所得税35万円)を受けていませんでした。気づいたのは二年後。控除の申告漏れは、5年以内なら還付申告でさかのぼれるので、二年分をまとめて申告し、所得税が戻りました(ひとり親控除35万円に税率を掛けた額で、税率5%なら二年で約3.6万円、10%なら約7.1万円。住民税は別に下がります)。勤務先の年末調整は、本人が申告書に書いたことしか反映しません。

最後に、退職や転職を考えている場合の一言。離婚と同時に仕事を辞めると、社会保険と税金の手続きが二重に発生し、当面の収入もなくなります。婚姻費用や養育費の記事で書いたとおり、収入は算定表の計算の土台になるので、離婚の話し合いが終わるまでは、今の勤務先での身分を変えないことを勧めています。

男性が言ったのは「市役所は教えてくれなかった」でした。市役所は市役所の手続きしか知りません。健康保険と手当と年末調整は、勤務先の窓口です。この記事の表は、その「勤務先でやること」だけを一枚にしたものです。離婚届を出した週のうちに、人事か総務に「離婚したので、扶養の異動と申告書の出し直しをしたい」と一言伝える。それで、七か月後の手紙は来ません。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-02

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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