学び・資格 2026-09-09

海事代理士の口述試験 ― 筆記のあとの冬に、四つの法律を口頭で答える

海事代理士試験は、秋の筆記に合格すると、11月下旬ごろに口述試験があります。船舶法・船舶安全法・船員法・船舶職員及び小型船舶操縦者法の四科目を、試験官の質問に口頭で答える形式。一科目数分、合計でも十数分の短い試験ですが、筆記とは別の準備が要ります。形式と合格基準、聞かれることの傾向、答え方の型、筆記の勉強との接続を、受けた立場で書きます。

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筆記の合格通知が届いたのは11月の初めで、口述は12月の中旬。私はその日、通知を見て喜んだあと、船舶法の条文を声に出して読んでみました。読めない。目で追えば意味は分かる条文が、口に出すと詰まる。「日本船舶とは」の次が出てこない。筆記で20科目を通った知識が、口では一科目も答えられない。この記事は、その夜から口述までの六週間の話です。

海事代理士とはの記事と海事代理士の勉強法の記事で、筆記試験の話を書きました。海事代理士試験には、筆記に合格したあと、もう一つ関門があります。口述試験です。筆記が秋(9月下旬ごろ)、口述が晩秋から冬(例年11月下旬〜12月ごろ。令和8年は9月25日と11月24日)で、筆記に合格した人だけが受けます。試験地は東京の国土交通省で、地方の受験者は上京することになります。

形式を書きます。口述試験の科目は四つ。船舶法、船舶安全法、船員法、船舶職員及び小型船舶操縦者法。筆記の20科目(憲法・民法・商法と、海事法令17科目)のうち、海事代理士の実務で最も基本になる四つが選ばれています。受験者は一人ずつ試験室に入り、試験官の質問に口頭で答えます。一科目あたり数分、四科目で十数分。質問は、条文の内容を問うものが中心で、「船舶の登記と登録の違いを述べてください」「船員法の労働時間の原則は」といった形です。合格基準は、四科目の合計で6割以上(各科目10点満点、合計40点で24点以上)とされていて、筆記のような科目ごとの足切りはありません。口述の合格率は高く、直近5年は94〜98%台です(年によって変動します)。

合格率が高いからといって、準備なしで通るわけではありません。口述で落ちる人は、知識がないのではなく、「口で答える練習をしていない」人です。筆記は、選択肢を見て正誤を判断する試験。口述は、何もない状態から条文の内容を言葉にする試験。同じ知識でも、出力の形が違います。筆記に合格した知識を、口述の形に組み替える練習が、この二か月の仕事です。

準備の中心は、「過去の口述試験の質問と模範答案」です。国土交通省は口述試験の内容を公表していませんが、受験者の再現をまとめた資料が受験の教材や先輩の記録として出回っていて、質問の傾向はかなり安定しています。四科目それぞれで、よく聞かれる論点は20〜30程度。船舶法なら、日本船舶の要件、船舶の登記と登録、船舶国籍証書、総トン数の測度。船舶安全法なら、検査の種類、船舶検査証書、満載喫水線。船員法なら、雇入契約、労働時間と休日、船員手帳、災害補償。船舶職員法なら、海技免状の種類、小型船舶操縦士の区分、乗組み基準。この論点を、「聞かれたら、こう答える」という短い文で、自分で作っておきます。

答え方には型があります。一つ、聞かれたことに、まず結論を一文で答える。「日本船舶とは、日本の官庁または公署の所有する船舶、日本国民の所有する船舶、などです」。二つ、条文の言葉を使う。試験官は条文を手元に置いていて、条文の用語で答えれば、それが正解の合図になります。三つ、分からなければ、分かる範囲を答えて、「以上です」と締める。黙り込むのが最悪で、部分点も入りません。四つ、試験官が助け舟(ヒント)を出してくれることがあるので、それに乗る。口述は、試験官との会話です。

口述試験の四科目と、よく聞かれる論点の例
科目論点の例
船舶法日本船舶の要件、登記と登録の違い、船舶国籍証書、総トン数の測度、船舶の国籍
船舶安全法検査の種類(定期・中間・臨時)、船舶検査証書、満載喫水線、無線設備
船員法雇入契約の届出、労働時間と休日の原則、船員手帳、災害補償、有給休暇
船舶職員及び小型船舶操縦者法海技免状の種類と有効期間、小型船舶操縦士の区分、乗組み基準、遵守事項

練習は、声に出すことです。論点を書いたカードを見て、答えを声に出して言う。家族に質問役を頼む。スマートフォンで録音して聞き返す。過去問ループの記事で書いた確信度の考え方は、ここでも使えます。「自信を持って言えた」「途中で詰まった」「言えなかった」を論点ごとに記録し、詰まったものと言えなかったものを優先して繰り返す。二か月で四科目、一日一科目ずつ回せば、十分に間に合います。

六週間で作ったのは、四科目で合計92枚のカードです。船舶法26枚、船舶安全法22枚、船員法25枚、船舶職員法19枚。表に質問、裏に答えを、条文の言葉で三文以内。たとえば表「日本船舶の要件を述べよ」、裏「日本の官庁または公署の所有する船舶、日本国民の所有する船舶、日本の法令により設立した会社で代表者の全員と業務執行役員の三分の二以上が日本国民であるものの所有する船舶、など」。この92枚を、一日一科目、四日で一周、六週間で十周。周回ごとに「言えた」「詰まった」「言えなかった」を記録して、最初の一周では言えたが31枚、詰まったが40枚、言えなかったが21枚。五周目で言えたが78枚、十周目で90枚。残りの2枚は、最後まで詰まり、当日は出ませんでした。

筆記合格から口述までの二か月

  1. 筆記合格の発表 その日から声に出す練習を始める(四科目の論点カードを作る)
  2. 1か月目 一日一科目、論点を声に出して答える(詰まった論点を確信度で記録)
  3. 2か月目 質問役を頼んで通しで練習(録音して聞き返す)
  4. 11月下旬〜12月 口述試験(東京)(最初の一問を落ち着いて)

録音は、三周目から始めました。スマートフォンで自分の答えを録って聞き返すと、自分では「言えた」つもりの答えが、「えー」と「あの」で条文の三倍の長さになっている。試験官は数分で四科目を聞くので、長い答えは途中で切られます。録音を聞いて、答えを短くする作業が、後半三週間の中心でした。一枚あたりの答えは、平均で15秒以内。それで、条文の要点は言い切れます。

当日は、控室で40分待ち、試験室で12分。船舶法の最初の質問は「船舶国籍証書について述べてください」で、カードの8枚目でした。答えて、試験官がうなずき、そこから声が出ました。四科目で聞かれたのは合計11問、そのうち10問がカードにあり、1問(船員法の「予備船員」)がなかった。その1問は、分かる範囲を答えて「以上です」と締めました。自己採点で40点中31点、合格でした。

当日の話を一つ。控室で順番を待つ時間が長く、緊張が高まります。試験室に入って、名前を言い、着席し、最初の質問が来る。最初の一問を落ち着いて答えられれば、あとは流れます。私が受けたときは、船舶法の最初の質問に条文どおり答えたところで、試験官がうなずいたのが見えて、そこから声が出るようになりました。筆記の合格が届いたら、その日から声に出す練習を始めてください。冬の口述は、秋の筆記の続きではなく、別の試験です。

合格通知の夜に読めなかった「日本船舶とは」は、六週間後、控室で待つ間に、何も見ずに三文で言えるようになっていました。92枚のカードと、十周と、録音。それだけです。「冬の口述は、秋の筆記の続きではなく別の試験」と本文の最後に書きました。別の試験に、別の練習で臨む。その練習の中身は、この記事の二つ目の表の六週間そのものです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-06

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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