作品の仕組み 2026-09-09
オリクジの仕組み ― 名前を折句短歌にする、AIとコードと人の分担
名前を入れると、各句の頭にその名前の音が隠れた短歌が返ってくる「オリクジ」。折句という和歌の技法をどう機械に実装したか、AIに詠ませた案をコードでどう検分するか、同じ日・同じ名前で同じ一首を返す再現の仕組み、人が責任を持つ範囲。KuraLabで最初に作った作品の裏側を書きます。
この記事の位置: [AIが作り、コードが検分する] → 送らない(端末の中で完結する) → 数字と実寸 → 教材の設計
公開した日の夜、最初に引いた名前は「ゆき」でした。返ってきた一首は、「ゆ」で始まる句と「き」で始まる句を持っていましたが、二句目の音数が八でした。コードの検分が通していなかったら、この歌が最初の一首として画面に出ていた。検分の三つの条件を「念のため」で入れていた私は、この夜、「念のため」を「必須」に書き直しました。この記事は、AIが詠んで、コードが検分して、人が決める、という型が、なぜこの順番なのかの話です。
オリクジは、名前を入れると、上から各句の頭を読むとその名前が現れる短歌(折句)を一首返す、みくじ形式のWeb Toyです。KuraLabで最初に作った作品で、あとの作品の「入力は小さく、返すものは一つ」という型は、ここから始まっています。仕組みを、順を追って書きます。
折句は、和歌の各句の頭に言葉を一文字ずつ織り込む技法です。『伊勢物語』の「かきつばた」を詠み込んだ歌(から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ)が有名で、五つの句の頭を拾うと「か・き・つ・ば・た」になります。オリクジはこれを名前でやります。「さより」なら、「さ」「よ」「り」を各句の頭に置く。五七五七七の三十一音に、名前の音を骨組みとして先に立てる、という順番です。
最初の工程は、名前の整形です。名前は、ひらがなかカタカナで2〜8文字入れてもらい、カタカナはひらがなに直して、音のまとまりに分けます(「しょう」の「ょ」や「ん」「っ」「ー」は、前の音と一つにまとめます)。五句に対して名前の音が三つなら三つの句の頭に、五つなら五つの句すべてに割り当てます。六つ以上ある名前は、はじめの五つまでを使います。この段階で「どの句の頭に何の音が来るか」という条件が決まります。
二つ目の工程が、再現のためのキーです。日本時間の日付、整えた名前の音、その日の運勢の位を組み合わせて、一つのキーを作ります。同じ日に同じ名前で引けば、保存してある同じ一首が返ります。引くたびに都合のいい結果が出る占いにはしない、という判断で、日をまたぐと新しい歌になります。
三つ目が、AIによる生成とコードによる検分です。歌の案は、季節と運勢を踏まえて生成AIが考えます。ただし、AIが出した文をそのまま表示はしません。コードが三つの条件を確認します。五つの句に分かれているか。かな読みで五・七・五・七・七の音数になっているか(字余りは各句一音まで認めます)。各句の頭が、指定した名前の音で始まっているか。一つでも外れた案は差し戻して詠み直させ、最大三回まで繰り返します。三回とも通らなければ、その回は歌を返さずにやり直しを促します。AIは「詠む」、コードは「検分する」、という分担です。
四つ目が、人の役割です。すべての一首をその場で人が選んでいるわけではありません。運営者が決めているのは、作品の基準です。題材にしない属性、文章の方向、運勢と季節の扱い、画面と保存画像の見え方。公開前に生成例を読んで基準を決め、公開後も、好ましくない傾向が見つかれば指示・検査・表示を直します。実際の生成は自動ですが、最終的な責任はAIに渡さず運営者が持つ、というのがKuraLabの制作方針で、この作品で最初に決めました。
| 工程 | 誰が・何が | 内容 |
|---|---|---|
| 名前の整形 | コード | かなで入れた名前をひらがなの音に整え、各句の頭への割り当てを決める(五音まで) |
| 再現キー | コード | 日付+名前の音+運勢。同じ日・同じ名前なら同じ一首 |
| 歌の案 | 生成AI | 季節と運勢を踏まえて一首を考える |
| 検分 | コード | 五句・五七五七七(字余りは一音まで)・句頭の音。外れれば差し戻し(最大三回) |
| 基準と責任 | 運営者 | 題材の制限、文章の方向、画面。公開後も直す |
結果は、固有のURLと共有カードとして残せます。カードでは名前の音が入った句の頭を朱で示して目で追えるようにし、名前が四音以下なら、残りの句は自由の一行として残しました。折句の仕掛けごと渡すためです。この結果URLは検索エンジンに登録しない設定にしていて、作品の入口はオリクジのページだけ、結果は受け取った人だけが見る、という分け方にしています。
展示室(ギャラリー)には、運営が架空の名前で毎日一首ずつ引いた歌を並べています。利用者の名前や結果を集めているのではなく、作品の見本として残している記録です。今日の一字と一緒に「日々の一首一字」としても読めます。
検分を入れる前に見た外れ方を書きます。生成AIに折句を詠ませると、三つの条件(五句に分かれている、音数が五七五七七、各句の頭が名前の音)のどこかで外れる歌が混じります。多いのは音数のずれで、句の頭の音が違うもの(「ゆ」のところに「よ」など)、句が四つか六つになるものもありました。試した回数や、外れた割合は記録を残していないので、数字では書けません。差し戻して詠み直させても三回で通らないときは、「歌を返さずにやり直しを促す」にしました。都合の悪い歌を出すより、出さないほうがいい、という判断です。
音数の数え方で、一つ直したところがあります。「きょう」は二音(きょ・う)で、「きよう」は三音。拗音を一音に数える、促音「っ」は一音、長音「ー」は一音。最初のコードは拗音を二音に数えていて、「きょう」を含む句が全部「音数オーバー」で落ちていました。名前に「りょう」「しょう」が入る人の歌が、ほぼ通らない。公開三日目に気づいて直しました。検分の厳しさは、数え方が正しくて初めて意味を持ちます。
人の役割の具体も書きます。AIに渡す指示文で決めているのは、現代の口語短歌で詠むこと、比喩は具体的にし、説教と抽象語(希望・未来・幸せなど)を避けること、名前の意味には触れないこと、凶の歌でも脅さず、笑えて優しい一首にすること。これは指示文の中の約束で、検分の三条件のように、コードが語を一つずつ確かめる仕組み(差し戻す語の一覧)は、まだ持っていません。公開前に読んだ生成例の数も記録していません。好ましくない傾向が見つかれば指示を直す、というのが今の運用で、AIに渡す指示と、人が持つ基準は、同じものの表と裏です。
オリクジで決めた三つのこと、名前の音を先に骨組みにする、日付と名前で再現する、AIの案をコードで検分する。この三つは、そのあとのふたりオリクジ、今日の一字、こころの節気にも同じ形で引き継がれています。作品の仕組みの記事を一本だけ読むなら、この作品の仕組みが、KuraLabの型そのものです。
公開初日の「ゆき」の歌は、検分に落ちて、二回目に詠み直された一首が返りました。「ゆうぐれに きみの足あと ゆっくりと きえてもいいと 思えるまでを」。一句目と二句目の頭は「ゆ」と「き」、音数は五七五七七。この一首を最初に見た人は、検分があったことを知りません。知らなくていい。AIが詠み、コードが検分し、人が決める。読む人に届くのは、三つを通った一首だけです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-03
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。