相続・手続き 2026-10-20

相続した実家の家財を片付ける ― 放棄を考えるなら手を付けない、業者の見積3社の読み方、片付けてから売るか・そのまま売るか

親が一人で住んでいた家を相続すると、売るにも貸すにも、まず家財の片付けが要ります。相続放棄を考えているなら価値のある物には手を付けないこと、片付けの前に探す書類(通帳・権利証・遺言書)、家庭の不用品を運べる業者の許可、見積3社(38万円・52万円・45万円)の中身の比べ方。そして、片付けて仲介で売る道と、家財ごと買取業者に売る道の手取りの差を、母の家を片付けた姉妹の数字で書きます。

目次を見る →

この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → [相続した財産をどうするか] → 状況別(当てはまる方だけ)

「母の家に入るたびに、どこから手を付ければいいのか分からなくなるんです」。50代の姉妹が相談に来たのは、母が亡くなって半年がたったころでした。地方の町にある木造2階建て、4LDKの家で、母は父が亡くなってからの15年、一人で暮らしていました。二人とも遠くに家庭があり、家は売るつもりです。押入れにも物置にも、40年分の物が詰まっていました。

片付けの前に、一つ確かめることがあります。相続放棄をするかどうかです。親に借金があって放棄を考えているなら、家財には手を付けないでください。相続人が遺産を処分すると、相続を認めた(単純承認)とみなされることがあり(民法921条1号)、そうなると放棄ができなくなるおそれがあります。価値のある家具や着物を売ったり、まとめて捨てたりするのは、放棄を決めてからでは遅い、ということです。姉妹は、母に借金がないことを信用情報の記録で確かめ、相続することを決めてから片付けに入りました。相続放棄の期限と手続きは、相続放棄の記事に書いています。

次に、業者を呼ぶ前に、自分たちで探す物があります。通帳と印鑑、不動産の権利証(登記識別情報)、保険証券、年金の書類、そして遺言書です。鍵の束や車の鍵、母が付き合っていた人の年賀状の束(亡くなったことを知らせるため)も、残す物の箱に入れます。姉妹は、仏壇の引き出しから封筒に入った母の手書きの遺言書を見つけました。家で見つかった手書きの遺言書は、開けずに家庭裁判所の検認を受けます(1004条)。封のある遺言書を家庭裁判所の外で開けると、過料の決まりもあります。検認の手続きは、遺言書の検認の記事にあります。同じ引き出しから現金18万円も出てきました。家で見つかった現金も遺産なので、通帳と一緒に財産の一覧に書き込みます。

実家の片付けの順番 ― 放棄を決めてから、書類を探してから、業者を呼ぶ
実家の片付けの順番 ― 放棄を決めてから、書類を探してから、業者を呼ぶ一番目に、相続放棄をするかどうかを決める。放棄を考えているなら家財に手を付けない。二番目に、通帳・権利証・保険証券・遺言書を自分たちで探す。手書きの遺言書は開けずに家庭裁判所の検認へ。三番目に、一般廃棄物を運ぶ市町村の許可があるかを確かめて業者を選ぶ。四番目に、片付けて仲介で売るか、家財ごと買取業者に売るかを選ぶ。 ① 放棄するか① 放棄するか 決めるまで決めるまで 家財に触らない家財に触らない ② 書類を探す② 書類を探す 通帳・権利証通帳・権利証 遺言書は開けない遺言書は開けない ③ 業者を選ぶ③ 業者を選ぶ 一般廃棄物の一般廃棄物の 市町村の許可市町村の許可 ④ 売り方④ 売り方 仲介 か仲介 か 家財ごと買取家財ごと買取 母の家 4LDK・40年分の家財 姉 妹 手書きの遺言書

一番目に、相続放棄をするかどうかを決める。放棄を考えているなら家財に手を付けない。二番目に、通帳・権利証・保険証券・遺言書を自分たちで探す。手書きの遺言書は開けずに家庭裁判所の検認へ。三番目に、一般廃棄物を運ぶ市町村の許可があるかを確かめて業者を選ぶ。四番目に、片付けて仲介で売るか、家財ごと買取業者に売るかを選ぶ。

相続財産を処分すると単純承認とみなされることがあります(民法921条1号)。家で見つかった手書きの遺言書は検認が必要です(1004条。法務局で保管されていたものは不要)。2026年10月時点。

片付けの業者は、3社に見積を頼みました。家に来てもらい、全部の部屋と物置を見てもらったうえでの金額です。現地を見ずに電話やメールだけで出してもらった見積は、当日に「思ったより物が多い」と追加の料金が出ることがあります。A社は税込38万円、B社は52万円、C社は45万円。安いA社に決めかけたところで、私は一つだけ聞いてもらいました。「家庭のごみを運ぶ許可は、どうなっていますか」。

家庭から出る不用品は、法律では「一般廃棄物」です。これを集めて運ぶ仕事をするには、その市町村の許可が要ります(廃棄物の処理及び清掃に関する法律7条)。会社や工場のごみ(産業廃棄物)を運ぶ許可だけでは、家庭の不用品は運べません。許可のある業者が自分で運ぶか、許可のある業者に頼んで運んでもらう形になっているかを確かめます。許可を受けた業者の一覧を公開している市町村もあるので、名前で確かめられます。A社は「提携先に運ばせる」と言いましたが、提携先の名前を答えられませんでした。不法に捨てられた家財から持ち主が分かれば、後で面倒に巻き込まれるのは姉妹のほうです。

B社とC社の見積を並べると、差は中身でした。B社は作業員5人で2日、2トントラック4台。C社は作業員4人で2日、トラック3台で、そのうえで着物と古い掛け軸を3万円で買い取る、という内容でした。買い取りをする業者は、古物商の許可を持っているかも見ます。姉妹はC社に決め、片付けの費用は45万円から買い取りの3万円を引いて42万円になりました。

片付けの当日、姉妹は1日目の朝だけ立ち会いました。業者に「捨てない物」の部屋を一つ決めて伝え、写真やアルバム、母の手紙はそこに集めてもらいました。作業の前と後の写真も撮ってもらい、遠くにいて立ち会えなかった妹の夫にも見せられるようにしました。仏壇は、お寺に頼んで閉眼供養(魂抜き)をしてから運び出しました。これは法律ではなく、家ごとの気持ちの問題です。

片付けが終わると、売り方を選びます。一つは、空になった家を不動産会社の仲介で売る道。もう一つは、家財が残ったまま、買取業者にそのまま買ってもらう道です。後者なら片付けの手間はいりませんが、買う側が片付けの費用と手間を見込むぶん、値段は下がります。どちらが得かは、家の場所と状態、片付けにかけられる時間で変わります。姉妹は、片付けを始める前に、二つの道で手取りを比べていました。

仲介で売る場合、不動産会社の査定は1,600万円。片付けの42万円、仲介手数料59万4,000円(1,600万円×3%+6万円に消費税)を引くと、手取りは1,498万6,000円です。買取業者の提示は、家財込みで1,250万円。仲介手数料はかからないので、手取りは1,250万円です。差は248万6,000円。ただし、仲介は売れるまで3か月から6か月かかることが多く、その間の固定資産税や草刈り、見回りの手間が続きます。買取なら1か月ほどで終わります。

片付けて仲介で売るか、家財ごと買取業者に売るか(この記事の例、税込)
項目片付けて仲介で売る家財ごと買取業者に売る
売値1,600万円1,250万円
片付け(45万円−買い取り3万円)マイナス42万円―
仲介手数料(3%+6万円に消費税)マイナス59万4,000円―
手取り1,498万6,000円1,250万円
売れるまで3〜6か月(この家は4か月)1か月ほど

姉妹は仲介を選びました。二人とも、半年なら月に一度は家を見に来られる、という判断でした。家が空になってから、建物の状態を調べる建物状況調査も入れ、4か月で買い手が見つかりました。売る前の調査の話は、相続した実家を売る前の建物状況調査の記事に書いています。

片付けの費用は、遺産から払うのが一般的です。姉妹は、母の預金から42万円を払い、領収書と見積書を遺産分割協議書の控えと一緒に保管しました。どちらか一人が立て替えた場合は、遺産を分けるときに精算します。誰がいくら出したかを、その場で紙に残しておくことが、あとで兄弟姉妹の間でもめないためのいちばんの備えです。

買取業者に家財ごと売る場合は、契約書の中身にも目を通します。家財を残したまま引き渡すこと、家の不具合について売る側が責任を負わない(契約不適合責任を負わない)ことが、特約で書かれているのがふつうです。仲介で個人に売る場合は、不具合の責任をどうするかを買う人と決めることになり、ここも二つの道の違いです。売主の責任については、売主の契約不適合責任の記事に書いています。

「片付けは、気持ちの整理だと思っていました」。姉はそう言いました。気持ちの整理であるのと同時に、相続の手続きの一部でもあります。放棄するかどうかを決めてから手を付ける。業者を呼ぶ前に書類を探す。業者の許可を聞く。この順番を守るだけで、後から困ることはずいぶん減ります。家を売らずに貸す、残す、という道を選ぶ場合も、片付けの順番は同じです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-20

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-20 確認)。

あわせてどうぞ

解説記事一覧