相続・手続き 2026-10-10
相続の書類を「有料で」作れるのは誰か ― 行政書士法19条、資格のない人が報酬をもらうと罰則、頼む前に登録番号を一つ聞く
2026年10月、行政書士の資格がないのに法人の依頼で国に出す許可申請の書類を作ったとして、会社員が行政書士法違反の疑いで逮捕されたと報じられました。相続の相談で聞く「知り合いが遺産分割協議書を3万円で作ってくれる」も、同じ条文の話です。行政書士法19条は、資格のない人が「報酬を得て、業として」官公署に出す書類や権利義務・事実証明の書類を作ることを禁じ、違反は1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金。無料の手伝いと自分の分は対象外です。頼んだ側に罰則はありませんが、書類の不備・個人情報・責任の所在という三つの損があります。費用例と、登録番号で確かめる方法を書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
2026年10月、行政書士の資格がないのに、法人の依頼を受けて国に提出する許可申請の書類を作っていたとして、会社員が行政書士法違反の疑いで逮捕された、という報道がありました。同じ週、相続の相談で、70代の男性からこう聞かれました。「知り合いの不動産屋さんが、遺産分割協議書を3万円で作ってくれると言うんですが、頼んでいいですか」。報道の事件と、この相談は、同じ一つの条文の話です。私は行政書士として、この条文が「誰を守るための線か」を書きます。
行政書士の仕事は、行政書士法1条の3に書いてあります。他人の依頼を受け、報酬を得て、官公署(役所)に提出する書類と、権利義務や事実証明に関する書類を作ること。相続に当てはめると、遺産分割協議書(誰が何を取るかを決める、権利義務の書類)、相続関係説明図(家族関係を示す、事実証明の書類)、農地を相続したときの農業委員会への届出、自動車の名義変更の申請書(官公署に出す書類)が入ります。ただし、同じ条文の2項で、他の法律が制限しているものはできない、と決まっています。法務局に出す登記の申請書は司法書士、税務署に出す申告書は税理士、裁判所に出す書類は弁護士(書類の作成は司法書士も)の仕事です。行政書士と司法書士の違いの記事に、相続での分担を書きました。
その上で19条です。「行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として」、1条の3の書類を作ることができない。条件は三つ。他人の依頼であること、報酬を得ること、業として(繰り返す意思をもって)行うこと。だから、親戚が無料で協議書の下書きを手伝うのは対象外。自分の相続の協議書を自分で作るのも対象外。「いかなる名目によるかを問わず」とあるので、「手数料」「相談料」「お礼」と名前を変えても報酬です。例外は、他の法律に定めがある場合(弁護士は法律事務として全部できます。司法書士・税理士・社会保険労務士は、それぞれの法律の範囲で)と、定型的で簡単な手続きとして総務省令で定めるものを、その手続きに経験のある人が電子データで作る場合です。
資格のない人が、他人の依頼を受け、報酬を得て、業として、役所に出す書類や権利義務・事実証明の書類を作ることは行政書士法19条で禁じられ、違反は1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金。親戚が無料で手伝う、自分の分を自分で作る、は対象外。登記は司法書士、税務は税理士、裁判は弁護士の仕事。
罰則は21条の2にあり、19条1項に違反した者は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。名称についても、行政書士でない者は「行政書士」やそれと紛らわしい名称を使えず(19条の2)、違反は100万円以下の罰金(22条の4)。看板に「書類作成代行」「代書」と書いて行政書士の名を使わなくても、有料で協議書を作れば19条の問題になります。2025年6月に公布され、2026年1月1日に施行された改正行政書士法(令和7年法律第65号)で、違反行為をした者を罰する条文(21条の2)が独立して置かれ、資格のない人の有償業務への罰則が条文の上で明確になりました。冒頭の報道は、この条文で逮捕された例です。
線がぼやける場面を書きます。不動産会社が、売買の仲介のついでに遺産分割協議書を「無料で」作る。葬儀社や銀行が「相続手続きサービス」を案内する。銀行が自分の銀行の預金の名義変更に必要な書類を案内するのは、自分の手続きなので問題になりません。協議書や戸籍の収集を「サービス」として引き受ける場合、報酬を取れば19条の話で、「無料」でも、他の有料サービスの対価にそれが含まれていると見られることがあります。実際には、大手の金融機関は提携する司法書士や行政書士、税理士に取り次ぐ形を取っています。取り次がれた先が有資格者かどうかを、名刺で確かめてください。
頼んだ側に罰則はありません。それでも、資格のない人に頼むと三つの損があります。一つ目は書類の不備。遺産分割協議書に書く不動産の表示は登記事項証明書どおりに書く必要があり、一文字違うと法務局で通りません。作り直しは相続人全員の実印と印鑑証明書をもう一度集めることです。二つ目は個人情報。戸籍、通帳の写し、印鑑証明書が、守秘義務のない人の手に渡ります。行政書士には業務上知った秘密を漏らしてはならない義務があり(12条)、違反には罰則があります。三つ目は責任。有資格者が間違えれば、懲戒と損害賠償の仕組みがあります。資格のない人が間違えたとき、その仕組みの外にいます。
見分け方は簡単です。行政書士には登録番号があり、日本行政書士会連合会のサイトで、名前か事務所名で登録の有無を検索できます。事務所には、業務の報酬額を見やすい場所に掲示する義務があります(10条の2)。名刺に「行政書士」と書いてあっても、登録番号を一つ聞いて、検索する。司法書士、税理士も、それぞれの連合会のサイトで同じように検索できます。登録番号を聞かれて困る人には、頼まないことです。
費用の例を書きます。架空の家で、行政書士に相続の書類一式を頼む場合。遺産分割協議書の作成50,000円、戸籍の収集(亡くなった人の出生から死亡まで)30,000円、相続関係説明図の作成10,000円、小計90,000円、消費税(10パーセント)9,000円、報酬の合計99,000円(税込)。これに実費が加わります。戸籍謄本450円×4通で1,800円、除籍・改製原戸籍750円×4通で3,000円、郵送請求の定額小為替の発行手数料200円×8枚で1,600円、合計6,400円。報酬と実費を足して105,400円。報酬は事務所ごとに自由に決めてよいので、この額は一つの例です。掲示を見るか、見積をもらってください。相続登記まで司法書士に頼む場合の費用は、相続登記の記事に書きました。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 遺産分割協議書の作成 | 50,000円 |
| 戸籍の収集(出生から死亡まで) | 30,000円 |
| 相続関係説明図の作成 | 10,000円 |
| 報酬の小計 | 90,000円 |
| 消費税(10パーセント) | 9,000円 |
| 報酬の合計(税込) | 99,000円 |
| 実費: 戸籍謄本 450円×4通 | 1,800円 |
| 実費: 除籍・改製原戸籍 750円×4通 | 3,000円 |
| 実費: 定額小為替の発行手数料 200円×8枚 | 1,600円 |
| 総額 | 105,400円 |
相続の書類を「有料で」誰に頼めるかを、表にまとめました。遺産分割協議書は、行政書士、弁護士、司法書士(登記に付随する場合)。相続登記の申請は司法書士と弁護士。相続税の申告は税理士。戸籍の収集は、受任した事務のために弁護士・司法書士・税理士・行政書士などの資格者が職務上請求という形で請求できます(戸籍法10条の2第3項)。家庭裁判所に出す書類(相続放棄の申述書、調停の申立書)は弁護士と、書類の作成に限って司法書士。表に出てこない人、たとえば不動産会社、保険の代理店、知り合いの元職員が、有料でこれらを作ると19条の話になります。
| 書類・手続き | 有料で頼める人 | 備考 |
|---|---|---|
| 遺産分割協議書 | 行政書士、弁護士、司法書士(登記に付随する場合) | 本人が作ることもできる |
| 相続関係説明図、法定相続情報一覧図の作成 | 行政書士、司法書士、弁護士、税理士など | 事実証明の書類。本人も作れる |
| 戸籍の収集 | 弁護士・司法書士・税理士・行政書士などの資格者 | 職務上請求(戸籍法10条の2第3項) |
| 相続登記の申請 | 司法書士、弁護士 | 行政書士はできない |
| 相続税の申告 | 税理士 | 行政書士・司法書士はできない |
| 家庭裁判所に出す書類(放棄の申述、調停の申立) | 弁護士。書類の作成に限り司法書士 | 本人が申し立てることもできる |
| 不動産会社・保険代理店・知り合い | ― | 有料で上の書類を作ると行政書士法19条などの問題 |
冒頭の相談に戻ります。不動産屋さんの3万円は、売買の仲介とは別に協議書を作ることの対価なので、「報酬を得て」に当たる可能性が高い。私は「無料にすると言われても、断ったほうがいい」と伝えました。理由は、その人が罰せられるかどうかではなく、前に書いた三つの損です。結局、この家の協議書は、男性が自分で作りました。相続人が三人、財産は実家と預金二口。遺産分割協議書の書き方の記事に書いたとおり、協議書は本人が作れる書類です。私が確かめたのは、不動産の表示が登記事項証明書と一字一句同じか、預金の口座番号が通帳と合っているか、の二点でした。
資格は「この人に頼めば間違いがない」という印ではありません。「この人が間違えたとき、責任を取る仕組みがある」という印です。資格のない人に頼むと、その仕組みの外に出ます。頼む前に、登録番号を一つ聞く。それだけで、大半は見分けがつきます。この記事の図は、相続の書類ごとに、有料で作れる人を並べたものです。「無料だから」と言われたときこそ、この図を見てください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-10
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-10 確認)。
- e-Gov法令検索「行政書士法」 ― 1条の3(業務。官公署に提出する書類、権利義務・事実証明に関する書類の作成。他の法律で制限されたものは除く)、10条の2(報酬額の掲示)、12条(秘密保持)、19条(行政書士でない者は報酬を得て業として作成できない)、19条の2(名称の使用制限)、21条の2(19条違反は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)、22条の4(名称違反は100万円以下の罰金)
- e-Gov法令検索「戸籍法」 ― 10条の2第3項(弁護士・司法書士・税理士・行政書士などの資格者が、受任した事務のために戸籍を請求できる職務上請求)