土地・不動産 2026-10-22
不動産会社に買い取ってもらうか、仲介で売るか ― 査定の差450万円が、手元では287万円に。手数料・準備の費用・期間・売ったあとの責任で比べる
相続した築45年の実家の査定は、仲介なら2,000万円、不動産会社の買取なら1,550万円でした。差は450万円ですが、仲介手数料72万6,000円、確定測量50万円、片付け40万円を引くと、手元に残る額の差は287万4,000円になります。買取の会社は売主の契約不適合責任を免除する条件で買うことが多い理由(宅建業法40条は会社が売主のときの決まり)、決済までの期間の違い、3人の兄弟が仲介を選んで「6か月で買取に切り替える」と決めた順番を書きます。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → [売るとき] → 貸す・借りる・特殊な権利
「不動産会社に査定を頼んだら、二つの数字が出てきました。仲介なら2,000万円、うちで買い取るなら1,550万円。差が450万円もあるのに、兄は買取がいいと言うんです」。50代の女性は、亡くなった母の家の査定書を二通並べて相談に来ました。家は築45年の木造2階建てで、相続人は女性と兄と弟の3人。誰も住む予定はなく、売って3人で分けることだけは決まっていました。
家を売る方法は、大きく二つあります。一つは仲介で、不動産会社に買主を探してもらい、個人などに売る方法。もう一つは買取で、不動産会社そのものが買主になる方法です。買い取った会社は、多くの場合、手を入れて転売します。直す費用と利益、売れ残る危険を見込むので、買取の価格は仲介の査定より低く出るのが普通です。差の大きさは家や地域によって違い、この家では450万円でした。
左に相続した実家。上の道は仲介で、不動産会社が間に入り、個人の買主に2,000万円で売る。決済まで3〜6か月の見込みで、仲介手数料・確定測量・片付けがかかり、売主は契約不適合責任を負う。下の道は買取で、不動産会社が買主になり1,550万円で買う。1か月ほどで決済、今の状態のまま、契約不適合責任を負わない条件が多い。
この記事の家の査定です。買取と仲介の差は、家や地域によって違います。
ただ、比べるべきなのは査定額ではなく、手元に残る額です。仲介で売るときは、仲介手数料がかかります。上限は、売買価格が400万円を超える場合「価格の3%+6万円」に消費税を足した額で、2,000万円なら72万6,000円です。買取は会社が直接買うので、仲介手数料はかかりません(買取の会社を別の不動産会社が紹介する形なら、かかることがあります)。
次に、売る前の準備の費用です。仲介で個人に売るときは、買主や銀行から、隣との境界がはっきりしていること(確定測量)や、家の中の物が片付いていることを求められるのが一般的です。この家では、確定測量の見積もりが50万円、家財の片付けが40万円でした。確定測量は、隣の土地の持ち主に立ち会ってもらって境界を決めるので、数か月かかることもあります。買取の会社は、境界の確認や片付けを自分で引き受け、今の状態のまま買う条件を出すことが多く、この家の買取の条件もそうでした。
時間も違います。仲介は、買主が見つかるまでの期間が読めません。この家の査定では、3か月から6か月の見込みでした。その間も、固定資産税や庭の手入れ、空き家の見回りは続き、3人で分けるお金も入りません。人が住まなくなった家は、住まいの火災保険の対象から外れることがあるので、保険の条件も確かめておきます。買取は、条件が合えば1か月ほどで代金の支払いと引渡し(決済)まで進みます。
見落とされやすいのが、売ったあとの責任です。売った家に、契約の内容と合わない欠陥(雨漏り、シロアリ、配管の傷みなど)があると、売主は買主から、修理や代金の減額、損害賠償などを求められます。これが契約不適合責任で、買主は、不適合を知ってから1年以内に売主に知らせれば足ります。個人どうしの売買では、この責任を負う期間を短くしたり、負わないと決めたりする特約もできますが、知っていて言わなかった欠陥は、特約があっても責任を免れません。
買主が不動産会社のときは、事情が違います。宅建業法40条は、不動産会社が売主になるときに、知らせる期間を引渡しから2年以上とする場合を除いて、民法より買主に不利な特約を禁じています。これは会社が売る側のときの決まりで、会社が買う側のときの決まりではありません。そのため買取では、「売主は契約不適合責任を負わない」という条件で買ってもらえることが多くあります。築45年の家で、見えない所の傷みを売ったあとで言われる心配がない。兄が買取を推した一番の理由は、これでした。
この家の数字を並べました。仲介で2,000万円で売れた場合、仲介手数料72万6,000円、確定測量50万円、片付け40万円、売主の売買契約書の印紙税1万円を引いて、手元に1,836万4,000円。買取は1,550万円から印紙税1万円を引いて、1,549万円。差は287万4,000円で、査定額の差450万円より小さくなりました。3人で分けると、一人あたり95万8,000円の差です。
| 仲介 | 買取 | |
|---|---|---|
| 売れる値段 | 2,000万円 | 1,550万円 |
| 仲介手数料(上限・税込) | 72万6,000円 | 0円 |
| 確定測量 | 50万円 | 0円(会社が引き受け) |
| 家財の片付け | 40万円 | 0円(今の状態のまま) |
| 売買契約書の印紙税 | 1万円 | 1万円 |
| 手元に残る額 | 1,836万4,000円 | 1,549万円 |
| 差(3人で割ると) | 287万4,000円(一人95万8,000円) | ― |
| 決済までの期間 | 3〜6か月(見込み) | 1か月ほど |
| 売ったあとの責任 | 売主が負う(特約で限ることはできる) | 負わない条件 |
税金の話も足しておきます。売った利益(譲渡所得)にかかる税金は、売った値段が高いほど増えるので、手元の差は税金を引くともう少し縮みます。相続した実家では、1981年5月31日以前に建てられた家などの条件を満たすと、利益から最高3,000万円を差し引ける特例があり、2024年以後の売却で相続人が3人以上なら、一人2,000万円までです。この家は1980年の建物でした。使えるかどうかで税額が大きく変わるので、税務署か税理士に確かめてください(相続した実家を売るときの「空き家の3,000万円控除」の記事に書きました)。
買取の見積もりの取り方にも注意があります。買取の価格は会社ごとの差が大きく、この家でも、別の2社に聞くと1,480万円と1,520万円で、最初の1,550万円が一番高い額でした。同じ家でも、直して売るか、壊して土地として売るか、転売のやり方が会社ごとに違うからです。2〜3社に聞き、価格だけでなく、残った家財の扱い、境界の確認を誰がするか、契約不適合責任を負わない条件か、決済の日を、同じ表に並べて比べます。
仲介と買取の間の売り方もあります。決めた期間のうちに仲介で売れなければ、あらかじめ決めた価格で不動産会社が買い取る、という約束を付けた仲介です。先に仲介で高く売れるかを試し、売れなければ買取に移る形なので、この兄弟の考え方に近いものです。ただ、約束される買取の価格が低めに決められていることもあるので、その価格を、単独で取った買取の見積もりと比べてから決めます。
兄弟は、仲介を選びました。287万円の差は一人95万円余りになり、急いで現金にする事情もなかったからです。ただし、6か月たっても買主が見つからなければ、その時点で買取に切り替える、と3人で決め、不動産会社に売却を頼む契約(媒介契約)は3か月ごとに見直すことにしました(媒介契約の種類と期間は、不動産売却の流れと媒介契約の記事に書きました)。売ったあとの責任の心配は、売る前に建物状況調査(インスペクション)で傷みを確かめ、分かったことを買主に伝えることで小さくしました。
買取か仲介かは、査定額の差だけで決めると判断を誤りやすい選びものです。手数料、準備の費用、期間、売ったあとの責任を、手元に残る額で並べます。差が小さい家や、傷みが心配な家なら買取。差が大きく、急ぐ事情のない家なら仲介。そう考えると、兄弟の話し合いの入口が作れます。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-22
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-22 確認)。
- 国土交通省「住宅業界に関連する民法改正の主要ポイント」 ― 瑕疵から契約不適合へ。買主は不適合を知ってから1年以内に売主に通知すれば足りる。追完請求・代金減額請求が加わった
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」 ― 1981年5月31日以前の家、売却代金1億円以下、最高3,000万円(2024年以後の譲渡で相続人が3人以上なら2,000万円)、2027年12月31日までの譲渡