土地・不動産 2026-09-25
ローンが残っている家を売る ― 決済の日に完済できるか、足りないときの三つの道
住宅ローンが残っている家も売れます。ただし、買主の代金で決済の日にローンを返し、抵当権を消せることが前提です。売却代金から仲介手数料・印紙・抹消の費用を引いて残債に届くか、届かないときの自己資金・住み替えローン・任意売却。転勤でマンションを売った人の実際の数字で、「これ以下では売れない値段」の出し方を書きます。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → [売るとき] → 貸す・借りる・特殊な権利
「ローンがまだ2,000万円以上残っているんです。それでも売れるんですか」。転勤が決まった40代の男性は、銀行から届いた返済予定表を机に置いて言いました。8年前に買ったマンションで、2社に頼んだ査定は2,400万円と2,300万円。予定表の残高は2,250万円でした。私は電卓を出して、「売れるかどうかより先に、いくらで売れば手元がゼロにならないかを出しましょう」と言いました。
ローンが残っている家には、銀行の抵当権が付いています。抵当権が付いたままの家を買う買主はいないので、売るときは、引き渡しの日(決済日)に、買主が払う代金でローンを一括で返し、同じ日に抵当権を消します。売却代金が、残っているローンと売るための費用の合計を上回れば、自分のお金を出さずに売れます。下回れば、差額を用意しないと抵当権が消せず、売れません。考えることは、この引き算だけです。
決済日の流れは決まっています。まず、決済日の2週間から1か月前に、ローンを借りている銀行へ一括返済を申し込みます。必要な期間は銀行によって違うので、売り出す前に電話で聞いておきます。決済の当日は、買主の銀行の一室などに、買主、売主、司法書士、不動産会社が集まります。買主の住宅ローンが実行されて代金が売主の口座に入り、そのお金がそのまま売主の銀行へ返済されます。銀行から抵当権の抹消書類を受け取った司法書士が、その日のうちに法務局へ、所有権の移転と抵当権の抹消を続けて申請します。抵当権抹消の記事に、抹消登記そのものの手続きを書いています。
買主の代金が売主の口座に入り、そのまま売主の銀行へ返済される。銀行は抵当権の抹消書類を司法書士に渡し、司法書士が同じ日に法務局へ所有権移転と抵当権抹消を申請する。
一括返済の申込みは、銀行によって決済日の2週間〜1か月前までに必要です。売り出す前に期間を確かめておきます。
売るための費用は、主に四つです。一つ目は不動産会社への仲介手数料で、上限は売買価格の3%+6万円に消費税(売買価格が400万円を超える場合)。二つ目は売買契約書に貼る印紙で、1,000万円を超え5,000万円以下の契約書は、本来2万円のところ、2027年3月31日までに作る契約書は軽減されて1万円です。三つ目は抵当権抹消の登録免許税(不動産1個につき1,000円)と司法書士の報酬。四つ目は、銀行によってかかる繰上返済の手数料です。このほか引っ越し代がかかり、反対に、固定資産税と管理費は引き渡しの日で日割りにして、買主から受け取ることが多いです。
では、足りないときはどうするか。道は三つあります。一つは、差額を自己資金で出すこと。二つ目は、住み替え先の家を買う場合に、新しいローンに古いローンの残りを上乗せする「住み替えローン」。借りる額が家の値段より大きくなるので、審査は厳しくなります。三つ目が「任意売却」で、返済が続けられなくなったときに、銀行や保証会社の同意を得て、残債より安い値段で売る方法です。売っても残った借金は消えず、分割で返す相談をすることになり、多くは返済の滞納を経ているので信用情報にも記録が残ります。任意売却や債務の整理は、弁護士に相談する領域です。
男性の家に当てはめます。まず銀行に電話して、決済予定月の返済後の残高と、一括返済の手数料を確かめました。残高は2,250万円、手数料は3万3,000円。マンションは建物1個と敷地2筆で、抹消の登録免許税が3,000円、司法書士の報酬を2万円と見て、抹消の費用は2万3,000円。これで、二つの査定額のそれぞれで、手元にいくら残るかを出しました。
2,400万円で売れれば、仲介手数料85万8,000円、印紙1万円、抹消2万3,000円、繰上返済手数料3万3,000円で、費用の合計は92万4,000円。ローンを返して57万6,000円が残ります。2,300万円だと、仲介手数料は82万5,000円で費用は89万1,000円、ローンを返すと39万1,000円足りません。査定の差は100万円ですが、男性にとっては「57万円が残る」と「39万円を出す」の違いでした。
| 2,400万円で売る | 2,300万円で売る | 実際(2,350万円) | |
|---|---|---|---|
| 仲介手数料(3%+6万円、税込) | 85万8,000円 | 82万5,000円 | 84万1,500円 |
| 売買契約書の印紙(軽減後) | 1万円 | 1万円 | 1万円 |
| 抵当権抹消(登録免許税3,000円+司法書士) | 2万3,000円 | 2万3,000円 | 2万3,000円 |
| 繰上返済手数料 | 3万3,000円 | 3万3,000円 | 3万3,000円 |
| 費用の合計 | 92万4,000円 | 89万1,000円 | 90万7,500円 |
| ローン返済後に手元に残る額 | 57万6,000円 | −39万1,000円(自己資金が要る) | 9万2,500円 |
ここから、「これ以下では売らない値段」を出しました。残債2,250万円に費用およそ91万円を足した2,341万円。これを下回ると、自分のお金を足すことになります。男性は、売り出しを2,400万円、値下げの底を2,350万円と決めて、不動産会社に伝えました。査定額の高い会社を選ぶのではなく、この底を先に決めておくのが、ローンの残る家を売るときのいちばん大事な準備だと私は考えています。
実際には、2,400万円で2か月出して内覧が3件、申込みはありませんでした。3か月目に2,350万円に下げて、1週間で申込みが入り、契約しました。手付金は100万円。手付金は、決済の日までは使わずに置いておくよう勧めました。手付解除で買主が抜ければ、それで終わりですが、売主の都合で解除するときは倍の額を返すことになるからです。決済は契約の1か月後で、仲介手数料84万1,500円を含む費用の合計は90万7,500円、ローンを返して手元に残ったのは9万2,500円。これに、買主から受け取った固定資産税と管理費の日割り分が加わりました。
ローンを返し終えたあとに、戻ってくるお金もあります。ローンを組んだときに保証会社の保証料を一括で前払いしていた場合、繰上げで完済すると、残りの期間に当たる保証料の一部が返ってくることがあります。住宅ローンと一緒に長期の火災保険をまとめて払っていた場合も、解約すれば残りの期間の分が戻ります。男性は、保証料の返金が約18万円、火災保険の解約返戻金が約4万円で、手元に残った額は合わせて30万円を超えました。どちらも自分から手続きしないと戻らないので、決済の前に銀行と保険会社に聞いておきます。
売り出す前に、銀行から取っておく書類があります。ローンの残高証明書(または返済予定表)と、一括返済の申込みの方法が分かる案内です。残高は毎月の返済で少しずつ減るので、決済の予定月の残高で計算します。ボーナス払いを併用している人は、ボーナス月をまたぐと残高が大きく変わるので、特に確かめてください。フラット35のように窓口が別の機関になっているローンでは、一括返済の申込みの先が借りた銀行と違うことがあり、そこで一週間ずれた例も見ました。
もう一つ、住み替えで「先に新しい家を買う」場合は、古い家が売れるまで二つのローンを払う期間ができます。売れないまま値下げを重ねると、底の値段を割ることになりかねません。男性は転勤先が社宅だったので、この心配はありませんでした。売却の流れと媒介契約の記事、売ったときの税金の記事もあわせて読むと、売り出す前に決めておくことがそろいます。
決済の日、男性は銀行の応接室で、抹消書類の封筒が司法書士に渡るのを見ていました。「ローンが残っていても売れる、の意味がやっと分かりました」。売れるかどうかは、査定額ではなく、残債と費用を足した数字との引き算で決まります。売り出す前に、その数字を一枚の紙に書いておいてください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-25
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-25 確認)。
- 国税庁 No.7108「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」 ― 売買契約書の印紙税の軽減(2027年3月31日までに作成されたもの)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」 ― 宅建業者の報酬(46条)。上限額は国土交通大臣の告示で定められている