相続・手続き 2026-10-15

曽祖父の名義のままの土地で、相続人が数十人になったら ― 判子が全員分そろわないときの、2023年改正の三つの道

相続登記をしないまま世代が下ると、相続人は数十人に増えます。全員の遺産分割協議が原則ですが、連絡がつかない人、返事をしない人がいると止まります。相続分の譲渡で人数を減らす、行方の分からない人の持分を地方裁判所の手続きで取得する(相続から10年経過が条件)、10年を過ぎた遺産は法定相続分で分ける。相続人32人・売値900万円の土地で、持分ごとの金額と手続きの順番を示します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → [状況別(当てはまる方だけ)]

「実家の土地を売ろうとしたら、名義がひいおじいさんのままでした。戸籍を集めてもらったら、相続人が32人いると言われました」。60代の男性からの相談です。土地は地方の住宅地にある約50坪の更地で、近所の人が900万円で買いたいと言ってくれていました。32人のうち、男性が顔を知っているのは8人。2人は住所すら分かりません。10月半ばには、相続人が100人を超えたという話がネットのニュースになっていました。人数は違っても、悩みの形は同じです。

なぜこんなに増えるのか。名義人が亡くなったあと相続登記をしないまま、相続人も亡くなると、その人の相続人が加わります(数次相続)。この家では曽祖父が1975年に亡くなり、子が5人、その子たちもそれぞれ亡くなって、配偶者や子が引き継いでいました。世代を一つ下るごとに、人数は2倍、3倍になります。仕組みは数次相続と代襲相続の違いの記事に書いたので、ここでは「増えてしまった後にどうするか」を書きます。

原則は、相続人全員で遺産分割協議をすることです。土地を誰が取得するかを決め、全員が実印を押し、印鑑証明書を付けます。32人全員の判子がそろえば、それが一番早い道です。現実には、ここで止まります。止まる理由は三つに分かれます。連絡がつかない人がいる。返事をしない、または反対する人がいる。人数が多すぎて書類を集めきれない。理由ごとに、使える道が違います。

相続人32人を三つに色分けすると、使う道が決まる(この家の例)
相続人32人を三つに色分けすると、使う道が決まる(この家の例)1975年に亡くなった曽祖父の名義の土地に、相続人が32人いる。連絡がついて協力した30人は、相続分の譲渡(22人)と遺産分割協議書への押印(8人)で整理した。行方が分からない2人は、地方裁判所で持分を取得する手続きを使った(相続から10年経過が条件)。反対や返事のない人がいるときは、家庭裁判所の調停が基本で、10年を過ぎた遺産は原則として法定相続分で分ける。 曽祖父(1975年死亡) 相続人 32人相続人 32人 連絡がつく 30人連絡がつく 30人 相続分の譲渡 22人相続分の譲渡 22人 協議書に押印 8人協議書に押印 8人 行方が分からない 2人行方が分からない 2人 地方裁判所で持分取得地方裁判所で持分取得 相続から10年経過が条件相続から10年経過が条件 反対・返事がない反対・返事がない 家庭裁判所の調停家庭裁判所の調停 10年後は法定相続分10年後は法定相続分

1975年に亡くなった曽祖父の名義の土地に、相続人が32人いる。連絡がついて協力した30人は、相続分の譲渡(22人)と遺産分割協議書への押印(8人)で整理した。行方が分からない2人は、地方裁判所で持分を取得する手続きを使った(相続から10年経過が条件)。反対や返事のない人がいるときは、家庭裁判所の調停が基本で、10年を過ぎた遺産は原則として法定相続分で分ける。

この家では反対した人はいませんでした。民法262条の2・904条の3、非訟事件手続法87条(2026年10月時点)。

一つ目の道は、人数を減らすことです。会ったこともない親戚の土地に関わりたくない人は少なくありません。そういう人には、自分の相続分を男性に譲ってもらう「相続分の譲渡」をお願いします(無償でも有償でも構いません)。譲った人は遺産分割協議から抜けるので、協議に加わる人が減ります。譲渡証書と印鑑証明書は要りますが、32人が一枚の協議書に判を押すより、一人ずつ譲渡証書をもらうほうが集めやすい、というのが実務の感覚です。考え方は相続分の譲渡と「事実上の放棄」の記事にあります。

知らない親戚に、いきなり譲渡証書を送っても、返事はほとんど来ません。この家で返事が来たのは、手紙に四つのことを書いてからでした。誰の名義のどこの土地か(登記事項証明書の写しを同封)。なぜ連絡したのか(売る話があること、相続登記が義務になったこと)。お願いしたいこと(相続分を譲ってほしい、または協議書に判を押してほしい)。費用はこちらが持つこと(印鑑証明書の取得代と返信用封筒)。最初の手紙は相続関係説明図の一部を付けて、「あなたが相続人になる理由」が一目で分かるようにしました。それでも、30人のうち5人は二通目、2人は電話でようやく返事をくれました。

二つ目の道は、連絡がつかない人のためのものです。住民票や戸籍の附票で住所を追っても見つからない人がいるとき、2023年4月に始まった「所在等不明共有者の持分の取得」が使えます(民法262条の2)。土地の所在地の地方裁判所に申し立て、裁判所が3か月以上の期間を決めて公告し、異議が出なければ、申し立てた人がその人の持分を取得できます。その代わり、裁判所が決めた額のお金を供託所に預けます(非訟事件手続法87条)。持分を自分が取得するのではなく、第三者に売る権限をもらう仕組みもあります(民法262条の3)。

注意点が一つあります。行方の分からない人の持分が、まだ遺産分割をしていない相続財産のときは、相続が始まってから10年が過ぎないと、この裁判は使えません(262条の2第3項)。曽祖父の相続は50年前なので、この家は条件を満たしていました。亡くなって数年の相続で行方不明の人がいるときは、これまでどおり、家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらう道になります(行方不明の相続人がいるときの記事)。

三つ目の道は、返事をしない人、反対する人がいるときです。この場合は家庭裁判所の遺産分割調停が基本です。ただ、2023年4月からは、相続が始まって10年を過ぎた遺産について、二つのことが変わりました。一つ、10年を過ぎた遺産分割では、原則として特別受益や寄与分(生前に多くもらった、介護で貢献した、という事情)を持ち出せず、法定相続分で分けます(904条の3)。争点が減ります。二つ、地方裁判所の共有物分割の手続きで、土地をまとめて分けられるようになりました(258条の2第2項。ほかの相続人が期限内に異議を出せば別です)。

お金の話をします。この土地は、固定資産税評価額が600万円、売値が900万円です。行方の分からない2人の持分は、それぞれ40分の1でした。売値で見ると1人22万5,000円、2人で45万円。これが、裁判所が決める供託額を考えるときの目安になります(額は裁判所が決めるので、この数字のとおりとは限りません)。残りの40分の38にあたる855万円が、連絡のつく30人の持分です。

この土地(売値900万円)の持分と金額
持分金額手続き
連絡がつく30人40分の38855万円相続分の譲渡22人・協議書への押印8人
行方が分からない2人40分の2(1人40分の1)45万円(1人22万5,000円)地方裁判所への持分取得の申立て、供託
合計40分の40900万円

この家では、実際にこう進めました。連絡がついた30人のうち、22人が相続分を男性に譲ってくれました。7人は遺産分割協議書に判を押し、1人は「売るなら代金を持分どおり分けてほしい」と言ったので、売却代金を分ける約束を協議書に書きました(換価分割)。行方の分からない2人については、地方裁判所に持分の取得を申し立てました。戸籍と附票を集めるのに4か月、申立てから決定まで公告期間を含めて5か月。相続登記の登録免許税は、評価額600万円の0.4%で2万4,000円です(途中の相続を別々に登記する回数が増えると、その分かかります)。

期限の話も書いておきます。相続登記は2024年4月から義務になり、それより前に始まった相続は2027年3月31日が期限です。人数が多くて間に合いそうにないときは、自分が相続人であることだけを先に法務局に申し出る「相続人申告登記」で、義務はひとまず果たせます。売るための手続きとは別に、この申出だけ先にしておく家もあります。

戸籍集めの費用も書いておきます。亡くなった人の出生から死亡までの戸籍を、曽祖父、子5人、その先の亡くなった人の分まで集めると、この家では除籍謄本と改製原戸籍(古い様式の戸籍)が80通、今の戸籍謄本が40通になりました。手数料は1通750円と450円なので、80通×750円=6万円、40通×450円=1万8,000円で、合計7万8,000円です。2024年3月からは、本籍地が遠くても最寄りの役所でまとめて請求できる「広域交付」が始まりましたが、使えるのは本人や直系の家族の戸籍に限られ、おじ・おばや、いとこの戸籍は従来どおり本籍地に請求します。

私が行政書士として手伝ったのは、戸籍の収集と相続関係の整理までです。地方裁判所への申立てと登記は司法書士に頼みました(裁判所に出す書類の作成や登記申請の代理は、司法書士や弁護士の仕事です)。相談の最初にしたのは、32人の名前を一枚の相続関係説明図に並べ、「連絡がつく」「つかない」「返事待ち」の三色で塗り分けることでした。三つの道のどれを使うかは、この色分けで決まります。

男性は、買主と話がまとまってから11か月後に決済を迎えました。「ひいおじいさんの土地のために、知らない親戚に22通も手紙を書きました」と笑っていました。名義が古いままの土地は、待つほど人数が増えます。まず、いま相続人が何人いるかを数えるところから始めてください。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-15

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-15 確認)。

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