相続・手続き 2026-10-19

父の会社の株主名簿に、知らない名前が4人 ― 名義株の見分け方、確認書のもらい方、相続税の申告前にそろえる書類

親が経営していた会社の株主名簿に、親戚でもない人の名前が並んでいることがあります。1990年の商法改正まで、株式会社をつくるには発起人が7人以上必要で、名前だけを借りた「名義株」が多く残っているためです。名義株かどうかを見分ける四つの物差し(払込みのお金・配当・株主総会・名義人の認識)、名義人から確認書をもらう段取り、相続税の申告と名義書換までを、2万株の会社を継いだ長男の数字で整理します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「父の会社の株主名簿に、会ったこともない人の名前が4人あるんです」。60代の長男が持ってきたのは、亡くなった父が経営していた会社の株主名簿の写しでした。父が1978年につくった金属加工の会社で、資本金1,000万円、発行している株は2万株。名簿には、父の1万4,000株のほかに、母と叔父がそれぞれ1,000株、そして長男の知らない名前が4人、1,000株ずつ載っていました。会社は長男が継いでいます。相続税の申告を税理士に頼む前に、この株が誰のものなのかを整理しておきたい、という相談でした。

10月には、親が子どもの名義の証券口座で持っていた株をめぐって、兄妹が争った話がネットの記事で配信されていました。名前は子どもでも、お金を出して管理していたのが親なら、親の財産と見られることがある。名義預金の記事で預金について書いたことが、株でも起こります。これを「名義株」といいます。この記事では、上場していない家族の会社の株を中心に、名義株の見分け方と、相続の前後にそろえる書類を書きます。

古い会社に名義株が多いのには、理由があります。1990年(平成2年)の商法改正までは、株式会社をつくるのに、発起人(会社をつくって最初の株を引き受ける人)が7人以上必要でした。そのため、実際にお金を出すのは社長1人で、残りは親戚や知人に名前を借りる、ということが広く行われていました。この会社も、父が1人で1,000万円を出し、6人の名前を借りて始めたと、長男は聞いていました。

名義株かどうかは、名簿に書かれた名前だけでは決まりません。私が相談で確かめるのは、主に四つです。一つ目は、株を引き受けたときのお金を誰が出したか(会社をつくったときの払込みの記録や通帳)。二つ目は、配当を誰が受け取っていたか。三つ目は、株主総会の招集通知が名義人に届いていたか、名義人が議決権を使っていたか。四つ目は、名義人自身が「自分の株だ」と思っているかどうかです。四つとも父の側を指すなら、名義株と考える材料がそろいます。どれかが名義人の側を指すなら、名義人の株と見られる可能性が出てきます。

名義株かどうかを見分ける四つの物差し
名義株かどうかを見分ける四つの物差し左に亡くなった父(お金を出した人)、右に株主名簿に名前がある名義人。真ん中に四つの物差し。1、会社をつくったときの払込みのお金を誰が出したか。2、配当を誰の口座で受け取っていたか。3、株主総会の通知が届き、議決権を使っていたのは誰か。4、名義人が自分の株だと思っているか。四つとも父を指せば、名義株と考える材料がそろう。 父 お金を出した人 名義人 名簿に名前だけ 株主名簿 ① 払込みのお金は誰が出したか① 払込みのお金は誰が出したか ② 配当は誰の口座に入ったか② 配当は誰の口座に入ったか ③ 総会の通知・議決権は誰か③ 総会の通知・議決権は誰か ④ 名義人は自分の株と思っているか④ 名義人は自分の株と思っているか 四つとも父を指す → 名義株と考える材料がそろう四つとも父を指す → 名義株と考える材料がそろう

左に亡くなった父(お金を出した人)、右に株主名簿に名前がある名義人。真ん中に四つの物差し。1、会社をつくったときの払込みのお金を誰が出したか。2、配当を誰の口座で受け取っていたか。3、株主総会の通知が届き、議決権を使っていたのは誰か。4、名義人が自分の株だと思っているか。四つとも父を指せば、名義株と考える材料がそろう。

最後に判断するのは、相続税の申告では税務署、争いになれば裁判所です。物差しの材料(通帳・配当の記録・議事録・確認書)をそろえることが、相談の前にできる準備です(2026年10月時点)。

会社法では、株式会社は株主名簿を作って本店に置き、株主の名前と住所、株の数、取得した日を記録します(121条、125条)。ただし、名簿に載っていることが、そのまま本当の持ち主である証明になるわけではありません。名簿を実際に合わせて直すには、名簿上の株主(亡くなっていればその相続人)と、株を受け取る人がそろって、会社に名義の書換えを求めるのが基本です(133条)。

この家では、四つを一つずつ確かめました。会社をつくったときの払込みは、父の個人の口座から1,000万円が一度に出ていました。配当は、残っていた20年分の記録で、全額が父の口座に入っていました。招集通知は名義人に送られておらず、総会の議事録に出てくるのは父と母と叔父だけ。母と叔父の株は、1990年代に二人が父から買い取っていて、代金を払った通帳の記録も残っていたので、それぞれの株と判断しました。残る4人、4,000株が名義株の候補です。

株主名簿が見当たらない会社もあります。そのときは、会社の法人税の申告書を見ます。申告書の「別表二」(同族会社かどうかを判定する明細)には、毎年、主な株主の名前と株数が書かれていて、名簿の代わりの手がかりになります。この会社も、名簿の写しと、過去10年分の別表二の株数が一致していることを確かめました。名前が途中で変わっていれば、そのときに株の移動があったことになり、その年の通帳や契約書を探します。

4人のうち3人は元気で、長男が父の古い住所録を頼りに連絡を取りました。3人とも「名前を貸しただけで、お金は出していないし、配当ももらっていない」と話し、その内容の「名義株であることの確認書」に署名と押印をもらいました。確認書には、株の数、名前を貸した経緯、お金を出したのは父であること、配当を受け取っていないことを書きます。残る1人は10年前に亡くなっていて、相続人は奥さんと長女でした。年賀状のやり取りが残っていた奥さんに事情を手紙で説明し、二人から同じ確認書をもらうまでに3か月かかりました。

確認書に応じてもらえないこともあります。名義人が「お父さんからもらった株だと思っていた」と言えば、四つ目の物差しは名義人の側を指します。話し合いで決まらなければ、株主であることの確認を裁判所に求めることになり、そこから先は弁護士の仕事です。親が元気なうちなら、名義人から親へ名義を戻しておく道もあります。そのときは、贈与と見られないよう、確認書に「もともと親の株で、名前を借りていただけ」という経緯を書いておきます。

お金の話です。上場していない会社の株は、相続税では国税庁が決めた方法で評価します。会社の規模や、株を受け取る人が経営を支配する家族(同族株主)かどうかで方法が変わり、計算は税理士の仕事です。この家では、税理士の試算で1株あたり4,000円でした。名義株と考えた4,000株は、父の財産として申告に入れることになり、その評価額は1,600万円です。父の名義の1万4,000株(5,600万円)と合わせると、1万8,000株で7,200万円。名簿の名前どおりに父の分だけを申告していたら、1,600万円が抜けていたことになります。

株主名簿と、誰の株と判断したか(この家の例。1株4,000円は税理士の試算)
名簿の名前株数誰の株と判断したか評価額
父1万4,000株父5,600万円
名義人4人(各1,000株)4,000株父(名義株。確認書あり)1,600万円
父の財産として申告1万8,000株7,200万円
母1,000株母(買い取った通帳の記録あり)(母の財産)
叔父1,000株叔父(同上)(叔父の財産)
合計2万株

名義株を財産に入れずに申告して、あとで税務調査で指摘されると、足りなかった相続税に加えて、過少申告加算税や延滞税がかかることがあります。反対に、名義人の株なのに父の財産に入れてしまうと、払わなくてよい税金を払うことになります。どちらになるかは四つの物差しの材料次第なので、確認書、払込みの通帳の写し、配当の記録、総会の議事録を、申告の前に税理士に渡せる形でまとめておきます。相続税がかかるかどうかの目安は、相続税の基礎控除の記事に書いています。

相続のあとの手続きも書いておきます。確認書がそろった株は、父の相続財産として遺産分割の対象になります。この家では、会社を継ぐ長男が父の1万8,000株を全部受け取り、その代わりに妹が預金を多めに受け取る形で話がまとまりました。遺産分割協議書には、名義人の名前のままの4,000株も、父の財産として株数を書いて入れます。そのうえで長男が会社に名義の書換えを求め、株主名簿は長男1万8,000株、母1,000株、叔父1,000株、合わせて2万株になりました。株の相続手続きの全体は、自動車や株式の相続手続きの記事にまとめています。

「名前を貸した人たちも、もう自分のこととは思っていませんでした」。長男はそう言いました。名義株は、会社をつくったころの事情が、何十年も名簿に残ったものです。名義人が元気なうちなら、確認書は手紙1通と面会1回で済みます。亡くなったあとだと、その相続人を探すところから始まります。会社を経営している親がいるなら、株主名簿を一度一緒に見ておくことを勧めます。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-19

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-19 確認)。

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