離婚・家族 2026-09-12
離婚と保険 ― 生命保険の受取人変更、学資保険の名義、解約返戻金の分与
離婚のとき、預貯金や不動産に気を取られて見落とされがちなのが保険です。配偶者を受取人にした生命保険の受取人変更、契約者と保険料負担者の名義、学資保険は誰が引き継ぐか、解約返戻金は財産分与の対象になること、離婚後の保障の見直しを整理します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
離婚から二年後、元夫が亡くなりました。女性のもとに、保険会社から「死亡保険金のお支払いについて」の封筒が届きます。元夫の生命保険の受取人は、離婚後も女性のままでした。2,000万円。元夫は再婚しておらず、相続人は元夫の両親。両親は「離婚した相手に保険金が行くのはおかしい」と言いましたが、受取人の欄が女性である以上、保険金は女性のものです。この記事は、受取人の欄が「そのまま」だったために起きた二つの話で、こちらは女性が得をした側の話です。
離婚協議書に書くことの記事で、財産の一覧に生命保険を含めると書きました。この記事は、その保険の扱いを詳しくします。保険は、預貯金や不動産と違って「今いくらの価値があるか」が分かりにくく、離婚の話し合いで見落とされがちです。
まず、生命保険の受取人です。配偶者を死亡保険金の受取人にしている契約は、離婚後もそのままにしておくと、離婚した元配偶者に保険金が渡ります。離婚・再婚のある家の相続の記事で書いたとおり、離婚しても遺言や保険の受取人は自動では変わりません。離婚が決まったら、保険会社に連絡して受取人を子や自分自身、あるいは新しい家族に変更する手続きをしてください。契約者本人からの請求で変更でき、受取人になっている元配偶者の同意は要りません。ただし、被保険者(保険の対象になっている人)が契約者本人でないときは、その被保険者の同意が要ります(保険法45条)。
次に、契約者・被保険者・保険料負担者の関係です。夫が契約者・被保険者で、保険料も夫が払っている生命保険は、財産分与の面では、解約したらいくら返ってくるか(解約返戻金)が財産としての価値です。掛け捨て型の保険(定期保険、医療保険の多くは掛け捨て)は解約返戻金がないか、あってもごくわずかなので、財産分与の対象にはなりません。貯蓄性のある保険(終身保険、養老保険、個人年金保険)は、婚姻期間に対応する解約返戻金の増加分が、財産分与の基本の記事で書いた2分の1の原則の対象になります。保険会社に「離婚時点で解約した場合の返戻金額」の証明書を発行してもらい、財産の一覧に加えます。
契約者が妻で、実際の保険料を夫の口座から払っていた場合は少し複雑です。実質的な保険料負担者が誰かによって、解約返戻金の財産としての帰属が変わることがあり、税務上も、契約者と保険料負担者が違う契約を解約すると、負担者から契約者への贈与とみなされることがあります。婚姻中はこの点が問題にならないことが多いですが、離婚時に契約者と負担者を一致させる(名義変更)ときは、贈与税がかからないよう、財産分与の一環であることを協議書に明記しておくと安全です。
学資保険(子の教育費のための保険)は、離婚後の扱いが特に問題になります。多くは父(または母)を契約者、子を被保険者にして加入しています。離婚後、子と暮らさない側が契約者のままだと、満期保険金の受け取りや途中解約の判断を、子と離れて暮らす親が持ち続けることになり、実務上は不便です。離婚時に、契約者を子と暮らす親に変更する(名義変更)のが一般的です。名義変更ができない保険会社の商品もあるので、保険会社に確認してください。学資保険の解約返戻金相当額も、財産分与の対象として一覧に加えます。将来受け取る満期保険金そのものは子のためのものなので、分与の対象は「離婚時点の解約返戻金相当額」で考えるのが実務です。
離婚後の保障の見直しも書いておきます。配偶者の扶養に入っていた医療保険は、離婚と会社の手続きの記事で書いたとおり、扶養から外れて自分で加入し直します。配偶者の生命保険に「家族特約」として自分や子が入っていた場合、離婚後も特約が続くかは契約によるので確認が必要です。ひとり親になったことで、自分自身の死亡保障(子が成人するまでの生活を支える保険)を新たに検討する家庭もあります。
同じ年に、逆の話もありました。離婚時に、妻が契約者で受取人が夫の終身保険を、そのまま放置。三年後に妻が亡くなり、保険金1,500万円は、離婚した元夫に支払われました。妻は再婚していて、新しい夫と子は、一円も受け取れませんでした。保険金は受取人固有の財産で、遺産分割の対象にも、遺言の対象にもならない。妻が遺言で「全財産を新しい夫に」と書いていても、受取人の欄が元夫なら、保険金は元夫のものです。受取人の変更は、契約者の妻なら保険会社への連絡一本で、元夫の同意は要りません。それをしなかった三年が、1,500万円でした。
| 項目 | すること |
|---|---|
| 死亡保険金の受取人 | 元配偶者になっていれば、子や自分自身へ変更(元配偶者の同意は不要。被保険者が契約者以外なら、その人の同意が要る) |
| 解約返戻金のある保険(終身・養老・個人年金) | 解約返戻金証明書を取り、財産分与の一覧に加える |
| 学資保険 | 子と暮らす親へ契約者を名義変更。解約返戻金相当額を分与の対象に |
学資保険の例も書きます。離婚時、夫が契約者、子(当時6歳)が被保険者の学資保険があり、満期は18歳で300万円。解約返戻金相当額は離婚時点で約110万円で、財産分与の一覧に入れ、2分の1ずつ。ただ、契約者を夫のままにしておくと、夫が途中で解約して返戻金を受け取ることもできる。離婚時に、契約者を妻(子と暮らす側)に名義変更し、以後の保険料は妻が払う、と協議書に書きました。名義変更の手続きは、保険会社の所定の用紙に夫婦双方が署名し、二週間で完了。12年後の300万円は、子の進学に、そのまま使われました。名義変更をしなかった別の家では、離婚から五年後に元夫が学資保険を解約し、返戻金180万円を自分のものにして、子の進学費用が消えた例もあります。
解約返戻金の証明書の話も一つ。夫の終身保険の解約返戻金は、離婚時点で約340万円でした。保険会社から「解約返戻金額のお知らせ」を取り寄せ、財産の一覧に。夫は「解約するつもりはないから、財産ではない」と主張しましたが、解約するかどうかではなく、その時点の価値が財産です。340万円の2分の1、170万円が妻の取り分に加わりました。「保険は今いくらの価値があるかが分かりにくく、見落とされがち」と本文の最初に書いたのは、この340万円のような数字が、証券を見ただけでは分からないからです。
まとめると、離婚のときの保険の実務は三つです。受取人の変更(相手を外す)、解約返戻金の財産分与への算入、学資保険の名義変更。どれも保険会社への連絡一本で進む手続きですが、離婚協議書に書くこと の記事で書いたとおり、誰が何をいつまでにするかを、協議書に一行残しておくことを勧めています。
受取人の欄をそのままにした二つの家で、一方は元妻に2,000万円、もう一方は元夫に1,500万円が渡りました。どちらも、保険会社への連絡一本で変えられた欄です。「受取人の変更、解約返戻金の算入、学資保険の名義変更」の三つを本文の最後に書きました。三つとも、離婚協議書に一行あれば、その日のうちに終わる手続きです。終わらなかった家の数字が、この記事の2,000万円と1,500万円と180万円です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-07
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。