探偵・調査 2026-10-16
連絡が途絶えた人を探したい ― 所在調査を探偵が引き受けるとき、断るとき。見つけた住所をすぐには渡さない理由
昔の恩師、疎遠になった友人、生き別れの親族。「会いたい人」を探す相談は、相続や借金の相手探しとは考え方が違います。他人の住民票は「会いたい」では取れず、探偵が代わりに取ることもできません。相手が自分で連絡を断っている場合、住所を渡すことがつきまといにつながるおそれもあります。自分でできる探し方、探偵の所在調査の中身、相手の了解を取ってから伝える順番、着手金と成功報酬の費用の例を書きます。
この記事の位置: 依頼する前に知っておくこと → [所在を調べる] → 証拠を集める
「高校のときの担任の先生に、どうしてもお礼を言いたいんです。10年前に年賀状が戻ってきてから、どこにいるのか分かりません」。50代の女性からの相談でした。先生は80歳近いはずで、女性は「元気なうちに」と急いでいました。人を探してほしいという相談は、相続人を探す、お金を返さない人を探す、というものだけではありません。昔の友人、恩人、生き別れの親族。この記事では、そういう「会いたい人」を探すときの順番と、探偵がどこで線を引くかを書きます。
私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目になります。所在調査の相談で最初に確かめるのは、探す理由と、相手との関係です。探偵業法は、調査の結果が犯罪行為や違法な行為に使われると知ったときは、その調査をしてはならないと定めています(9条1項)。人探しで一番気をつけるのは、相手が自分の意思で連絡を断っている場合です。別れた交際相手、離れていった元配偶者、縁を切った家族。相手が居場所を知られたくないのに住所を伝えれば、つきまといや待ち伏せにつながるおそれがあります。どちらもストーカー規制法が禁じている行為です。
依頼する前に、自分でできることは意外に多くあります。共通の知人に聞く。同窓会や勤め先のOB会の名簿を当たる。相手の名前で検索して、地域の活動や趣味の会の記事を探す。古い住所に手紙を出す(郵便局の転送は、届け出から1年間です)。SNSで相手らしい人を見つけたときは、いきなりメッセージを送る前に、共通の知人を通して「連絡してもよいか」を聞いてもらうほうが、返事をもらえることが多いものです。突然の連絡は、相手にとっては怖さが先に立ちます。この女性も、まず高校の同窓会の事務局に問い合わせ、先生が退職後に隣の県へ移ったことまでは分かりました。
住民票で追えないか、と聞かれることもあります。他人の住民票の写しを取れるのは、自分の権利を行使するためなど、正当な理由がある人に限られます(住民基本台帳法12条の3)。貸したお金を請求する、相続の手続きで相続人の住所が要る、という場合は当たりますが、「会ってお礼を言いたい」は当たりません。探偵も、住民票や戸籍を代わりに取ることはできません。権利を行使するときの住民票の取り方は、養育費を払わない元夫の住所が分からないときの記事に書きました。
探す相手が親や子、祖父母なら、話は変わります。自分の直系の親族(親・子・祖父母・孫)の戸籍と、住所の移り変わりが書かれた戸籍の附票は、自分で請求できます。幼いころに別れた父を探したい、という人は、まず父の本籍地の役所に、父の戸籍の附票を請求してみてください。今の住所が分かることがあります。ただし、相手がDV等支援措置を受けていれば、附票の交付も止められます。兄弟姉妹やおじ・おばは直系ではないので、この方法は使えません。
探偵の所在調査は、聞き込みと、公開されている情報の突き合わせが中心です。最後に分かっている住所のまわりで、近所の人や管理会社に話を聞く。引っ越し先の地域の手がかり(勤め先、通っている病院、趣味の会)から範囲を絞る。現地で、表札や郵便受け、本人の出入りを確かめる。使うのは公道や公開の場所で確かめられることだけで、家に入る、郵便物を開ける、といった方法は使いません。探偵業法6条は、探偵だからといって、ほかの法律で禁じられたことをしてよいわけではないと定めています。
見つかったとき、住所をそのまま依頼者に渡すかどうかは、事務所によって考え方が分かれます。私の事務所では、相手が連絡を断った事情が分からないときは、先に相手の側に「この人が連絡を取りたがっている」と伝え、了解をもらってから依頼者に連絡先を伝えるようにしています。相手が断れば、依頼者には「見つかったが、連絡は望んでいない」とだけ伝えます。依頼者には不満の残るやり方ですが、調査の結果を相手の望まない接触に使わせないためには、この順番がいちばん確かです。
依頼者が探偵に所在調査を頼む。探偵が相手を見つけたら、先に相手に「この人が連絡を取りたがっている」と伝える。相手が了解すれば依頼者に連絡先を伝える。相手が断れば、依頼者には「見つかったが、連絡は望んでいない」とだけ伝え、住所は伝えない。
運用は事務所によって違います。探偵業法9条1項(2026年10月時点)。
調査の途中で、相手がすでに亡くなっていたと分かることもあります。そのときは、分かった範囲(いつごろ、どこで亡くなったか、お墓がどこにあるか)を報告書に書き、遺族の方に連絡を取るかどうかは、依頼者と相談して決めます。遺族の側にも、知らない人から連絡が来ることを望まない事情がありえます。ここでも、先に相手の側の気持ちを確かめる順番は変わりません。
お断りする相談もあります。探す理由と、相手との関係の説明がかみ合わないとき。相手が引っ越した理由を「分からない」と言いながら、新しい勤め先まで知りたがるとき。相手が電話やSNSで依頼者をはっきり拒んでいるとき。DVやストーカーの被害を受けた人は、市区町村に申し出て、住民票の写しの交付を制限してもらえます(総務省の「DV等支援措置」)。法律がそこまでして守っている住所を、探偵が見つけて渡すことはできません。
お金の話をします。所在調査は、調査員の人数と日数で組む方式のほかに、着手金と成功報酬を組み合わせる方式がよく使われます。架空の例を作ります。着手金10万円、見つかったときの成功報酬15万円。見つかれば合計25万円(税別。税込27万5,000円)、見つからなければ着手金の10万円(税込11万円)です。交通費や宿泊費などの経費が別にかかることも多いので、見積の段階で経費の上限を決めてもらいます。何をもって「見つかった」とするか(住所が分かったときか、本人に会えたときか、相手の了解が取れたときか)も、契約書で確かめてください。相手が連絡を断った場合に成功報酬がかかるのかどうかも、事務所によって扱いが違うので、契約の前に聞いておきます。
| 見つかった場合 | 見つからなかった場合 | |
|---|---|---|
| 着手金 | 10万円 | 10万円 |
| 成功報酬 | 15万円 | 0円 |
| 合計(税別) | 25万円 | 10万円 |
| 合計(税込) | 27万5,000円 | 11万円 |
この女性の場合です。同窓会の事務局の情報で、先生が隣の県の市に移ったことは分かっていました。私たちはその市で、先生が退職後に関わっていたという書道の会を手がかりに、会の世話役の方に事情を話しました。世話役の方が先生に連絡をとってくださり、先生から「ぜひ会いたい」と返事が来たのは、着手から3週間後でした。住所は、先生の了解をもらってから女性に伝えました。
女性は、30年ぶりに先生へ手紙を書いたそうです。人を探すときに大事なのは、見つけることより、相手が会いたいと思うかどうかです。依頼する前に、探す理由を一行で書いてみてください。その一行が相手に見せられる内容かどうかが、所在調査を頼めるかどうかの目安になります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-16 確認)。
- e-Gov法令検索「探偵業の業務の適正化に関する法律」 ― 6条(他の法令で禁止された行為ができるわけではない)、9条1項(調査結果が犯罪行為や違法な行為に使われると知ったときは業務をしてはならない)、10条(秘密の保持)
- e-Gov法令検索「住民基本台帳法」 ― 12条の3(本人・家族以外が住民票の写しを請求できるのは、自己の権利を行使するためなど正当な理由がある場合)、20条(戸籍の附票の写しは、本人・配偶者・直系尊属・直系卑属が請求できる)
- 総務省「DV等支援措置」 ― DV・ストーカー・児童虐待などの被害者の申出による、住民票の写し等の交付の制限