探偵・調査 2026-10-13
養育費を払わない元夫の住所が分からないとき ― 住民票の請求、裁判所の情報取得、探偵の居住確認の順番
公正証書があっても、相手の住所と勤務先が分からなければ差押えは進みません。最初にすることは、探偵に頼むことではなく、自分で住民票の写しを請求することです。権利を行使するための請求なら、本人や家族でなくても取れます(住民基本台帳法12条の3)。勤務先は、財産開示手続を経てから、裁判所が市町村や年金機構に問い合わせます。探偵の出番は、住民票と実際の住まいが違いそうなときだけです。未払い48万円の例で、かかったお金と順番を書きます。
この記事の位置: 依頼する前に知っておくこと → [所在を調べる] → 証拠を集める
「元夫が一年前から養育費を払いません。電話もLINEもつながらず、前のアパートは引き払っていました。探偵さんに、今どこに住んでいるか調べてもらえますか」。離婚して4年になる40代の女性からの相談でした。小学生の子が一人いて、養育費は月4万円。離婚のときに、払わなければ強制執行を受けると認める文言(執行認諾文言)の入った公正証書を作っていました。私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目です。このときは、調査の見積を出す前に「まず、ご自分で住民票を取ってみてください」と伝えました。この記事は、そこから給与の差押えまでの順番です。
公正証書があれば、裁判を起こさずに差押えができます(書類ごとの違いは、養育費が払われないときの記事に書きました)。ただ、差押えの申立てには、相手の住所と、何を差し押さえるか(ふつうは勤務先からの給与)が要ります。住所が分からなければ裁判所の書類が届かず、勤務先が分からなければ差し押さえる先がありません。探すものは、この二つです。
住所は、住民票の写しで追います。住民票は本人か家族しか取れないと思われがちですが、住民基本台帳法12条の3は、自分の権利を行使するために住民票の記載を確かめる必要がある人にも、写しを出せると定めています。養育費を受け取る権利がある人が、差押えのために相手の住所を確かめるのは、その典型です。窓口では請求の理由を書き、公正証書の写しなど、権利があることが分かる書類を見せます。郵送でも請求できます(必要な書類と手数料は市区町村によって違うので、先に電話で確かめます)。
手順はこうです。最後に知っている住所の市区町村に、住民票の写しを請求します。すでに引っ越していれば、出てくるのは「除票」(転出した人の住民票)で、そこに転出先の住所が書いてあります。次は、転出先の市区町村に請求します。これを、今の住所にたどり着くまで繰り返します。相手の本籍が分かっていれば、本籍地の役所で「戸籍の附票」の写しを取る方法もあります。附票には住所の移り変わりが一枚にまとまっているので、何度も引っ越している相手なら早く追えます(附票も、権利の行使のためなら本人以外が請求できます。住民基本台帳法20条)。附票の読み方は、相続人の住所を調べる記事に書きました。
断られることもあります。DVやストーカーの被害を受けた人は、申し出によって、相手方からの住民票の写しの請求を止めてもらえます(総務省の「DV等支援措置」)。元夫がこの措置を受けていれば、元妻からの請求は断られます。その場合は、自分で住所を探そうとせず、弁護士に相談して、裁判所の手続きの中で進めます。
勤務先は、裁判所に調べてもらいます。2020年の民事執行法の改正で、養育費などについては、裁判所が市町村や日本年金機構などに相手の勤め先を問い合わせる「第三者からの情報取得手続」ができるようになりました(民事執行法206条)。ただし、勤務先の照会を申し立てるには、その前の3年以内に「財産開示手続」(相手を裁判所に呼び、財産を申告させる手続き)が行われていることが条件です。だから順番は、住所を確かめる、財産開示手続を申し立てる、勤務先の情報を取る、給与を差し押さえる、となります。銀行口座の照会(207条)は、財産開示を先にしなくても申し立てられます。
左から順に、①住民票・除票を自分で役所に請求して住所を確かめる、②裁判所で財産開示手続、③裁判所が市町村や日本年金機構に勤務先を照会する、④給与を差し押さえる、の四つが矢印でつながっている。①の下に探偵がいて、住民票と実際の住まいが違いそうなときだけ、居住確認や所在調査をする。勤務先の照会は、3年以内に財産開示を済ませていることが条件。待ち伏せ、なりすまし、無断ログインはしない。
探偵の出番は、住民票では足りないときです。住民票を移さずに別の場所で暮らしている、住民票の住所は実家で本人は住んでいないらしい、という場合です。裁判所からの書類は住所あてに送られるので、そこに本人がいなければ手続きが止まります。探偵は、住民票の住所に実際に住んでいるかを確かめたり(居住確認)、住民票と違う住まいを探したり(所在調査)できます。ただし探偵業法は、調査の結果を犯罪や違法な差別に使わないという書面を、契約の前に依頼者からもらうよう探偵業者に義務づけています(7条)。結果が押しかけなどに使われると分かれば、業者は調査をしてはいけません(9条1項)。
自分でしてはいけないこともあります。共通の知人に嘘をついて居場所を聞き出す。相手のSNSに勝手にログインする。相手の実家の前で待ち伏せする。どれも、相手から責められる理由をこちらが作ってしまいます(他人のIDで勝手にログインするのは、不正アクセス禁止法で罰せられる行為です)。住所が分かっても、会いに行くのではなく、裁判所の手続きに乗せてください。
お金の話です。この家の未払いは、月4万円の12か月分で48万円でした。自分と探偵にかかった費用は、表のとおりです。住民票の写しは、この人が請求した市ではどちらも1通300円でした。裁判所の手数料は手続きごとにかかります。たとえば勤務先の情報取得は、大阪地方裁判所の案内では、申立ての手数料が1件1,000円(収入印紙)、郵便代などの予納金が照会先1か所で6,000円です(2026年10月時点。裁判所によって違うことがあるので、申し立てる裁判所の案内で確かめます)。
この家の場合です。女性はまず、前のアパートがあった市に、公正証書の写しを付けて、郵送で住民票の写しを請求しました。届いたのは除票で、隣の県の市への転出が書かれていました。その市に請求すると、今の住所の住民票が取れました。2通で600円、かかった日数は約3週間です。ただ、その住所は元夫の実家でした。そこで私が、居住確認だけを半日引き受けました。朝の出勤の時間帯に、元夫がその家から車で出ていくのを確かめ、報告書にしました。費用は、調査員1名・4時間で32,000円、交通費3,000円、消費税3,500円、合計38,500円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 住民票の写し(除票1通・住民票1通、1通300円) | 600円 |
| 居住確認(調査員1名・4時間) | 32,000円 |
| 交通費 | 3,000円 |
| 消費税(調査費と交通費の10パーセント) | 3,500円 |
| 合計 | 39,100円 |
| (参考)回収したい未払いの養育費(月4万円×12か月) | 480,000円 |
そのあと女性は、法テラスを通じて弁護士に依頼し、財産開示手続を申し立てました。元夫は裁判所に来ませんでした(正当な理由なく来ないと、刑事罰の対象になります)。続けて勤務先の情報取得を申し立てると、市役所からの回答で勤務先が分かり、給与の差押えができました。養育費の差押えは手取りの2分の1まで認められ、これから先の月4万円も、毎月、勤務先から女性の口座に振り込まれるようになりました。最初の相談から約5か月でした。
探偵に頼めば、最初から全部分かると思われがちです。けれど、住所は住民票で、勤務先は裁判所で調べるのが、安くて確かな順番です。この記事の図は、その順番と、探偵が入る場所を一枚にしたものです。探偵に頼むのは、書類で追えなくなったところからで足ります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-13
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-13 確認)。
- e-Gov法令検索「住民基本台帳法」 ― 12条の3第1項(自己の権利を行使するために住民票の記載事項を確認する必要がある者などへの、本人等以外の申出による住民票の写しの交付)、20条(戸籍の附票の写しの交付)
- e-Gov法令検索「民事執行法」 ― 197条(財産開示手続の実施決定)、206条(給与債権に係る情報の取得。養育費など151条の2第1項の請求権が対象で、市町村や日本年金機構などに照会。3項で205条2項を準用し、申立ての日前3年以内に財産開示期日の手続が実施されていることが必要)、207条(預貯金債権に係る情報の取得)
- 総務省「DV、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の方は、申出によって、住民票の写し等の交付等を制限できます」 ― DV等支援措置。相手方からの住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付の請求などを制限する