土地・不動産 2026-10-18
マンションで下の階に水漏れしたら ― 原因が専有部分か共用部分かで払う人が変わる。区分所有法9条の「推定」と、配管の境目
マンションの水漏れで最初に決めるのは、原因の配管が、自分の部屋のもの(専有部分)か、みんなのもの(共用部分)かです。標準管理規約では、給水管はメーターまで、排水管は立て管と継手までが共用部分。原因が分からないときは、区分所有法9条で共用部分にあると推定されます。止水から保険の連絡までの順番と、5階の部屋から4階の天井にしみが出た家の実際の数字(合計34万1,000円、自己負担12万1,000円)を書きます。
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「下の階の方から、天井にしみが出ていると言われまして」。60代の男性が持ってきたのは、管理会社の担当者が撮った写真でした。男性は築35年のマンションの5階に、亡くなった母から相続した部屋で暮らしています。真下の4階の部屋の、洗面所の天井のクロスが、手のひらほどの大きさで茶色く変わっていました。「うちのせいなら払います。でも、うちのせいなのかどうかが分からないんです」。
マンションの水漏れは、原因の配管が誰のものかで、直す人と払う人が変わります。マンションの建物は、区分所有法という法律で、各部屋の持ち主が一人で持つ「専有部分」と、全員で持つ「共用部分」に分かれています(2条)。廊下や階段、建物の骨組み(躯体)は共用部分です。配管は、同じ一本の水の流れの途中で、持ち主が切り替わります。
どこで切り替わるかは、そのマンションの管理規約で決まります。多くのマンションの規約の元になっている国土交通省の「マンション標準管理規約」では、給水管は、本管から各部屋の水道メーターまでが共用部分、メーターより先は専有部分です。排水管は、各階を縦に貫く「立て管」と、立て管と部屋の配管をつなぐ継手までが共用部分で、そこから部屋の中に伸びる横の配管は専有部分です(別表第2、7条3項)。床や壁は、コンクリートの躯体を除いた内側が専有部分です。自分の部屋の床下を通っていても、立て管なら共用部分、という点が分かりにくいところです。
原因がすぐに分からないときに効くのが、区分所有法9条です。建物の設置や保存に欠陥があって他人に損害が出たとき、その欠陥は共用部分にあるものと「推定」されます。推定というのは、反対の証明がされない限りそう扱う、という意味です。下の階の人は、どの配管が原因かを自分で証明しなくても、まず管理組合に損害の賠償を求めることができます。管理組合の側は、原因が特定の部屋の専有部分にあると示せば、その部屋の持ち主に責任を移せます。専有部分の配管が原因なら、その持ち主が払うのが原則です(民法717条。建物などの欠陥で他人に損害を与えたときの責任)。
5階と4階の部屋の断面。各階を縦に貫く排水の立て管と、立て管につなぐ継手までは共用部分。継手から部屋の中に伸びる横の排水管は専有部分。給水管は本管から各部屋の水道メーターまでが共用部分で、メーターより先は専有部分。この家では、5階のメーターより先の給湯管の継手がゆるみ、4階の天井にしみが出た。
境目は各マンションの管理規約で決まります。原因が分からないうちは、欠陥は共用部分にあると推定されます(区分所有法9条。2026年10月時点)。
水漏れに気づいたときの順番を書きます。一つ目、自分の部屋の元栓(メーターのそばの止水栓)を閉める。二つ目、管理会社か管理組合の理事長に連絡する。三つ目、下の階の人にあいさつし、天井や壁の状態を写真に撮らせてもらう。四つ目、自分の火災保険の契約を確かめ、保険会社に連絡する。五つ目、業者に原因の箇所を調べてもらい、報告書をもらう。部屋の持ち主が不在で漏水が続いているときは、規約によっては、理事長が部屋に立ち入って応急の措置ができます(標準管理規約23条)。
男性の部屋では、管理会社が手配した業者が漏水の調査をしました。床をはがして分かった原因は、メーターより先、洗面台へ向かう給湯管の継手のゆるみでした。メーターより先なので専有部分、つまり男性の配管です。立て管や共用の給水管には問題がありませんでした。原因が分かったことで、9条の推定は外れ、男性が払う側になりました。業者の報告書には、漏れていた継手の写真と、メーターからの位置が書かれていて、これが管理組合と保険会社の両方に出す書類になりました。
お金です。漏水の調査が税込3万3,000円、男性の部屋の配管の修理と床の復旧が税込8万8,000円、4階の天井のクロスの張り替えと、照明器具の付け直しが税込22万円。合計34万1,000円です。男性の火災保険には「個人賠償責任」の特約が付いていて、他人の部屋に与えた損害の22万円は保険から支払われました。自分の部屋の配管の修理と調査の費用は、この特約の対象外でした(保険が払う範囲は契約によって違います。2026年10月時点)。男性の負担は、差し引き12万1,000円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 漏水の調査 | 33,000円 |
| 自分の部屋の配管の修理と床の復旧 | 88,000円 |
| 4階の天井のクロス張り替え・照明の付け直し | 220,000円 |
| 合計 | 341,000円 |
| 個人賠償責任の特約から(4階の損害の分) | マイナス220,000円 |
| 男性の負担 | 121,000円 |
逆の場合も書いておきます。原因が立て管や、メーターまでの給水管なら共用部分なので、修理は管理組合が行い、費用は管理費や修繕積立金から出します。多くの管理組合は、共用部分の火災保険に、建物全体の個人賠償責任をまとめて付ける特約を付けています。その場合は、下の階の損害も管理組合の保険で払われることがあります。どちらの保険を使うかで、保険料の今後に影響することもあるので、管理会社と保険会社の両方に確かめます。
築年数がたったマンションでは、専有部分の配管も一緒に古くなっています。標準管理規約のコメントでは、専有部分の配管の取替え費用は、その部屋の持ち主が実費で負担するものとされています。そのうえで、共用部分の配管の工事と同時にやれば安くなる場合は、規約に定め、総会の決議を経て、管理組合がまとめて工事をすることもできます(21条2項)。2026年4月に施行された改正区分所有法でも、このやり方が法律の上で明確になりました(18条4項)。相続や購入でマンションに住むなら、長期修繕計画に配管の更新が入っているか、自分の部屋の配管がいつ替えられたかを、一度確かめておくと安心です。中古マンションを買う前に見る管理の書類の記事にも、確かめ方を書いています。
相続した部屋ならではの落とし穴もありました。男性の部屋の火災保険は、亡くなった母が契約者のままでした。保険会社に連絡すると、まず契約者と被保険者を男性に変える手続きが要ると言われ、保険金が出るまでに1か月ほど余分にかかりました。管理組合にも、相続で持ち主が変わったことの届出を出していなかったので、管理会社は最初、緊急の連絡先が分からずに困ったそうです。相続でマンションの部屋を受け継いだら、相続登記とあわせて、管理組合への届出、火災保険の名義、そして水道の元栓の場所の三つを、早めに確かめておくと、いざというときに慌てずに済みます。下の階の人との話は、原因の報告書が出るまでは「確認中です、分かりしだいお知らせします」と伝え、修理の見積は相手が選んだ業者のものを見せてもらい、保険会社にそのまま出すと、話が早く進みます。
男性は、修理が終わった4階の天井を、持ち主と一緒に見に行きました。「うちの部屋の床下のことなんて、考えたこともありませんでした」。水漏れでもめるのは、たいてい、誰の配管かが分からないまま、謝るか、払うかの話を先にしてしまったときです。まず止めて、写真を撮り、原因の箇所を業者の報告書で確かめる。払う人は、そのあとで決まります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-18
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-18 確認)。
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」 ― 2条(専有部分と共用部分の定義)、9条(建物の設置・保存の瑕疵は共用部分にあると推定する)、18条(共用部分の管理。4項は2026年4月施行の改正で、規約の定めがあれば専有部分の保存行為等も集会の決議で決められる)
- 国土交通省「マンション標準管理規約」 ― 令和7年改正の単棟型(コメント含む)。7条(専有部分の範囲)、21条(共用部分等の管理と、専有部分の配管を一体で管理する場合)、23条(漏水などの緊急時の立入り)、別表第2(給水管は本管から各住戸のメーターまで、排水管は継手と立て管が共用部分)、コメント21条関係(専有部分の配管の取替え費用は各区分所有者が実費を負担)
- e-Gov法令検索「民法」 ― 717条(土地の工作物の設置・保存の瑕疵による損害の賠償責任)