土地・不動産 2026-10-23

マンションの管理組合のお金の横領を防ぐ ― 通帳と印鑑を別の人が持つ、毎月の収支報告と通帳を突き合わせる、監事が見る三つのもの

輪番で監事になった人が、前の会計担当の理事が通帳と届出印を両方自宅に置いていたと知って相談に来ました。管理組合のお金の横領は、管理会社の担当者からも、組合の内側からも起きます。法律が管理会社に課している分別管理(収納口座と保管口座、翌月末までの移し換え、1か月分以上の保証契約、印鑑を持たない原則、毎月の収支報告)と、法律が届かない組合内部の決まりの作り方、40戸で月108万円が動く組合の数字を書きます。

目次を見る →

この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → [持っている間:税金と登記] → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利

「前の会計担当の理事さんが、修繕積立金の通帳と銀行の届出印を、両方とも自宅の引き出しに入れていたんです」。築30年、40戸のマンションで、輪番で監事になった50代の女性が相談に来ました。引き継ぎのときに通帳を受け取り、記帳してみたら残高は合っていた。それでも、一人の人が通帳と印鑑をそろえて持っていれば、その人の判断だけでお金を下ろせます。今まで何もなかったのは、仕組みのおかげではなく、その人のおかげでした。

2026年10月には、管理会社の社員や組合の理事による管理組合のお金の横領が後を絶たない、という記事が経済誌のサイトに載りました。横領には二つの型があります。一つは、管理を任された管理会社の担当者が、組合の口座からお金を抜く型。もう一つは、理事や会計担当など組合の内側の人が抜く型です。前者には法律の決まりがあり、後者は組合が自分で決まりを作るしかありません。

まず法律の決まりです。マンション管理適正化法76条は、管理会社に、組合から預かった修繕積立金などを、自社のお金や他の組合のお金と分けて管理すること(分別管理)を求めています。やり方は施行規則87条にあり、口座の名前で三つに分かれます。住民から集めたお金をいったん受ける「収納口座」、修繕積立金をためておく「保管口座」、その両方を兼ねる「収納・保管口座」です。収納口座を使うときは、毎月、その月に集めたお金から管理の費用を引いた残りを、翌月末日までに保管口座へ移します。保管口座と収納・保管口座は、管理組合(または理事長などの管理者)の名義でなければなりません。

住民のお金は収納口座から、翌月末までに保管口座へ。保管口座の印鑑は、原則として管理会社が持たない
住民のお金は収納口座から、翌月末までに保管口座へ。保管口座の印鑑は、原則として管理会社が持たない左に住民(区分所有者)。住民から収納口座へ「管理費+修繕積立金」の矢印。収納口座から保管口座へ「費用を引いた残りを翌月末までに移す」の矢印。収納口座の印鑑を管理会社が持つ方式では、1か月分の集金額以上の保証契約が要る。保管口座は管理組合の名義で、その印鑑は理事長が持ち、管理会社は原則として持たない。管理会社は毎月の収支の書面を翌月末までに理事長へ渡す。 住民 40戸 収納口座 保管口座 毎月108万円毎月108万円 残りを翌月末までに残りを翌月末までに 印鑑を管理会社が持つなら印鑑を管理会社が持つなら 1か月分以上の保証契約1か月分以上の保証契約 組合名義・印鑑は理事長組合名義・印鑑は理事長 管理会社は原則持たない管理会社は原則持たない 監事 毎月の収支の書面 ⇔ 通帳の残高を突き合わせる毎月の収支の書面 ⇔ 通帳の残高を突き合わせる 年に一度は銀行から残高証明書を直接取り寄せる年に一度は銀行から残高証明書を直接取り寄せる

左に住民(区分所有者)。住民から収納口座へ「管理費+修繕積立金」の矢印。収納口座から保管口座へ「費用を引いた残りを翌月末までに移す」の矢印。収納口座の印鑑を管理会社が持つ方式では、1か月分の集金額以上の保証契約が要る。保管口座は管理組合の名義で、その印鑑は理事長が持ち、管理会社は原則として持たない。管理会社は毎月の収支の書面を翌月末までに理事長へ渡す。

2026年10月時点の施行規則87条による。収納・保管口座を一つだけ使う方式もあります。管理会社が管理者になる方式では、総会決議などの条件付きで例外があります。

次が、印鑑とお金の保証です。管理会社は、保管口座や収納・保管口座の印鑑、預金を下ろすカードなど(印鑑等)を、原則として預かってはいけません。例外は、理事長などがまだ選ばれていない短い間や、管理会社自身が管理者になる方式で、総会の決議などの厳しい条件を満たした場合に限られます。また、管理会社が住民からお金を集めて自社が印鑑を持つ収納口座を通す方式では、1か月分の集金額以上を補う保証契約を結んでおく必要があります。つまり、管理会社の手元を通るお金を仕組みの上でおよそ1か月分に抑え、その分には保証を付ける、という考え方です。

報告の決まりもあります。管理会社は、毎月の会計の収入と支出の書面を作り、翌月末日までに理事長などに渡します(施行規則87条5項)。年に一度は、管理業務主任者という資格者が、管理事務報告書を渡して説明します(法77条、施行規則88条)。報告書が届くことと、中身を確かめることは別の話です。毎月の書面の「保管口座残高」と、通帳の残高が同じか。これを誰かが見ていなければ、報告は紙が届くだけで終わります。

組合の内側の人による横領は、この法律の決まりが届きません。法律が縛っているのは管理会社だからです。自分たちで管理している組合(自主管理)や、理事が通帳を預かっている組合では、規約や細則に「通帳は会計担当理事、届出印は理事長が別々に保管する」「預金の払い出しは理事会の承認を経て、二人で銀行に行く」と書いておきます。ネットバンキングを使うなら、振込の承認を二人に分ける設定があるかを銀行に確かめます。

監事が見るものは三つです。一つ目は、通帳の原本か、銀行が出す残高証明書。コピーは作り直せるので、決算の時期には銀行から直接取り寄せた残高証明書を見ます。二つ目は、毎月の収支の書面と、通帳の出入りの一致。工事代金のような大きな出金に、理事会の議事録と請求書が付いているか。三つ目は、通帳・印鑑・カード・ネットバンキングのパスワードを、それぞれ誰が持っているかの一覧です。一覧が作れないこと自体が、見直しの合図になります。監事一人で全部を見るのが難しければ、理事会で毎月一人ずつ順番に通帳の写しと収支の書面を見比べる、という分け方もあります。

この組合の数字です。管理費は1戸月1万5,000円、修繕積立金は1戸月1万2,000円。40戸なので、毎月、管理費60万円と修繕積立金48万円、合わせて108万円が口座に入ります。管理会社が収納口座を通す方式のため、保証契約は108万円以上が必要で、管理委託契約書で、保証の額が120万円と確かめました。修繕積立金は1年で576万円たまります。保管口座の残高証明書は、管理会社を通さず、理事長名で銀行から取り寄せることにしました。

この組合で毎月動くお金(40戸)
項目1戸の月額40戸の月額
管理費1万5,000円60万円
修繕積立金1万2,000円48万円
合計(1か月に入るお金)2万7,000円108万円
必要な保証契約の額―108万円以上(この組合は120万円)
修繕積立金の1年分14万4,000円576万円

組合で変えたことは三つです。届出印は理事長、通帳は会計担当理事と、別の人が持つことにしました。払い出しは理事会の議決を経て、二人で手続きする、と細則に書きました。監事は、毎月の収支の書面と通帳の写しを、年に二回、原本と照らし合わせることにしました。かかった費用は、細則の改正を決めた臨時総会の会場代くらいでした。

いちばん危ないのは、人が替わる時期です。理事の交代、管理会社の変更、担当者の異動。引き継ぎの日には、通帳の記帳と残高証明書、印鑑とカードの受け渡しを、受け取った側が署名する書面にして残します。銀行の届出印を変えるときは、新しい印鑑を誰が持つかを議事録に書きます。前の担当者が通帳を返さない、残高が合わない、というときは、まず理事会で事実を記録し、銀行で口座の動きを確かめてから、管理会社、警察、弁護士に相談します。管理会社の担当者が関わっていたなら、保証契約や管理会社の責任で取り戻せる部分があります。

決算の書類にも、見る場所があります。貸借対照表の「預金」の欄が、保管口座と収納口座の残高証明書の合計と一致しているか。「未収入金」(まだ払われていない管理費など)が急に増えていないか。集めたのに入金していない、という横領は、滞納のように見えることがあるからです。この組合の決算では、未収入金は1戸分の3か月で8万1,000円(2万7,000円×3か月)。戸ごとの滞納の一覧と、督促の手紙の控えが付いていて、通帳の動きとも合っていました。

私は宅建士として、中古マンションの売買で管理の書類を読むことがあります。買う人に見てほしいのは、総会の議事録に「残高証明書を確認した」と監事の報告が載っているかどうかです。修繕積立金の額だけでなく、そのお金を誰がどう見張っているかも、建物の値打ちの一部です。

通帳と印鑑を別の人が持つ。毎月の報告と通帳を突き合わせる。年に一度は銀行から残高証明を取り寄せる。どれも、いま横領している人を見つけるためではなく、誰も魔が差さずに済むようにするための仕組みです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-23

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-23 確認)。

あわせてどうぞ

解説記事一覧