離婚・家族 2026-10-20
別れた夫が亡くなったら ― 子どもは相続人、私は相続人ではない。特別代理人、3か月の数え方、遺族年金が止まる理由
離婚した元配偶者は相続人ではありませんが、二人の子どもは、親が離婚しても再婚しても、亡くなった親の第1順位の相続人です。未成年の子の代わりに遺産分割をするときの特別代理人、相続放棄の3か月を誰が知った時から数えるか、養育費と生命保険の扱い、そして子どもの遺族年金が「受け取れるはずなのに止まる」仕組みを、元夫の再婚相手と話し合った母親の数字(遺産3,060万円、子1人あたり510万円)で書きます。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → [離婚が成立したら] → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
「別れた夫が亡くなったと、向こうの奥さんから電話がありました」。40代の女性は、離婚して7年、中学2年の長女と小学5年の長男を一人で育てています。元夫は離婚の2年後に再婚し、再婚相手との間に2歳の子がいました。養育費は月6万円(二人分)を、亡くなる月まで欠かさず払ってくれていたそうです。電話は、相続の手続きに子どもたちの書類が要るので協力してほしい、という内容でした。「私が何かしないといけないんですか」という相談でした。
最初に整理するのは、誰が相続人かです。離婚した元配偶者は、相続人ではありません。この女性は、元夫の財産を受け継ぐ立場にありません。一方、子どもは、親が離婚しても、どちらの親権に入っても、亡くなった親の子のままで、第1順位の相続人です。この家の相続人は、元夫の妻(再婚相手)、前の結婚の長女と長男、再婚後の2歳の子の4人。法定相続分は、妻が2分の1、子どもは残りの2分の1を3人で分けて、1人6分の1ずつです。前の結婚の子も後の結婚の子も、分け前は同じです。相続人の範囲の考え方は、離婚・再婚が重なる家の相続の記事にも書いています。
亡くなった元夫を中心に、再婚相手(妻)が相続人で2分の1。前の結婚の長女と長男、再婚後の2歳の子が相続人で、それぞれ6分の1。離婚した母親は相続人ではなく、点線でつながる。母親は長女と長男の親権者として手続きをし、長男には特別代理人が付く。
前の結婚の子も後の結婚の子も、分け前は同じです(2026年10月時点)。
子どもが未成年なので、相続の手続きは、親権者であるこの女性が代わりに行います。女性自身は相続人ではないので、女性と子どもの利益がぶつかることはありません。ところが、長女と長男の二人を、同じ遺産分割の話し合いで一人の親が代理すると、一方に多く分ければもう一方が減る関係になります。この場合、どちらか一人のために、家庭裁判所に特別代理人(その子のためだけに話し合いに加わる人)を選んでもらう必要があります(民法826条2項)。この家では、女性の兄が長男の特別代理人の候補になりました。申立てには、子1人につき収入印紙800円と郵便切手がかかります。再婚相手も、自分の2歳の子を代理すると利益がぶつかるので、その子のための特別代理人を立てることになります。未成年の相続人の手続きは、特別代理人の記事に詳しく書いています。
次に考えるのが、相続するか、放棄するかです。期限は3か月ですが、子どもが未成年のときは、親権者が「子のために相続が始まったことを知った時」から数えます(917条)。この家では、電話を受けた日が起点です。借金が多ければ、子どものために相続放棄を考えます。女性は、再婚相手から財産の一覧を出してもらい、相続人として信用情報機関に元夫の借入れの記録の開示も求めました。住宅ローンは、団体信用生命保険で完済になっていました。ほかの借入れは見つかりませんでした。
養育費の支払いは、払う人が亡くなれば終わります。払う義務は、その人だけのものだからです。ただし、亡くなる前に払われていなかった分があれば、それは元夫の借金として相続人に引き継がれ、遺産の中から払ってもらうよう求められます。この家は未払いがなかったので、ここは問題になりませんでした。
生命保険は別に考えます。元夫は離婚のとき、自分の生命保険の受取人を長女と長男にしたままにしていて、受取人は各250万円を受け取りました。受取人が決まっている保険金は、受取人自身のお金で、遺産分割の対象になりません。相続放棄をしても受け取れます。未成年の子の分は、親権者の女性が子どもに代わって手続きします。離婚のときの保険の扱いは、離婚と保険の記事に書いています。
遺族年金は、思い込みが多いところです。元夫は会社員で、厚生年金に入っていました。子どもが元夫に生計を維持されていたと認められれば(養育費を受け取っていたことが手がかりになります)、子どもにも遺族年金の受給権が生じえます。ところが、二つの決まりで支給は止まります。子に対する遺族基礎年金は、子が父か母と暮らしているあいだは止まります(国民年金法41条2項)。子に対する遺族厚生年金は、亡くなった人の配偶者(ここでは再婚相手)が受給権を持つあいだは止まります(厚生年金保険法66条1項)。この家では、どちらも止まる形でした。再婚相手が再婚するなどして受給権を失えば、止まっていた子の遺族厚生年金が動き出すことがあるので、年金事務所で状況を確かめておきます。
遺産の中身は、元夫と再婚相手が住む家(評価額2,400万円)、預金600万円、車60万円で、合わせて3,060万円でした。子ども1人の法定相続分は6分の1で510万円です。再婚相手は家に住み続けたいと考え、家と車を受け取る代わりに、子どもたちにお金(代償金)を払う形になりました。特別代理人を選ぶ申立てでは、遺産分割の案を家庭裁判所に出し、子どもの取り分が不当に少なくないかを見られます。案は、子ども3人それぞれが510万円を受け取る形にしました。
分け方はこうです。預金600万円は長女と長男が300万円ずつ。再婚相手は、長女と長男に210万円ずつ、2歳の子に510万円の代償金を払います。これで子ども3人は510万円ずつ。再婚相手は家と車で2,460万円を受け取り、代償金930万円を払うので、手元に残るのは1,530万円です。相続人4人の基礎控除は3,000万円+600万円×4人で5,400万円なので、相続税はかかりません。
| 相続人 | 受け取る財産 | 代償金 | 差し引き |
|---|---|---|---|
| 再婚相手(妻) | 家2,400万円・車60万円 | マイナス930万円(払う) | 1,530万円 |
| 長女 | 預金300万円 | 210万円(受け取る) | 510万円 |
| 長男 | 預金300万円 | 210万円(受け取る) | 510万円 |
| 2歳の子 | ― | 510万円(受け取る) | 510万円 |
| 合計 | 3,060万円 | 0円 | 3,060万円 |
女性がしたことを順に並べると、電話の翌週に相続人の範囲と財産の一覧を確かめ、1か月目に借入れの記録を取り寄せ、2か月目に特別代理人の申立て、4か月目に遺産分割協議書に署名、という流れでした。子どもの受け取ったお金は、子ども名義の口座で、親権者が管理します。子どもの将来のためのお金なので、生活費と混ぜないよう、別の口座に分けました。
書類のやり取りも、思ったより多くなります。遺産分割協議書には、未成年の子の代わりに親権者または特別代理人が署名して実印を押し、その人の印鑑証明書を付けます。親権者であることを示すために、子どもの戸籍謄本も要ります。再婚相手とは、直接会わずに郵送でやり取りする形にし、書類を送る前に、何の書類を何通、いつまでに、という一覧を作ってもらいました。感情の行き違いを減らすには、用件を書面にそろえるのがいちばんです。
「私は関係ないと思っていたのに、私が全部やるんですね」。女性はそう言いました。元配偶者が亡くなったとき、離婚した本人は相続人ではありません。それでも、未成年の子の親権者として、手続きの中心に立つことになります。電話を受けた日から3か月の数えが始まる。それを覚えておくだけで、慌て方がずいぶん違います。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-20
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-20 確認)。
- e-Gov法令検索「民法」 ― 826条2項(親権者が数人の子を代理して利益が相反するときは、一方のために特別代理人を選任する)、915条・917条(相続の承認・放棄の3か月は、子が未成年なら法定代理人が知った時から数える)、887条・900条(子は相続人で、配偶者と子が相続人なら子の分は2分の1を人数で分ける)
- e-Gov法令検索「国民年金法」 ― 41条2項(子に対する遺族基礎年金は、配偶者が受給権を持つとき、または生計を同じくする父か母がいるときは支給停止)
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法」 ― 66条1項(子に対する遺族厚生年金は、配偶者が受給権を持つ期間は支給停止)