相続・手続き 2026-10-14
墓じまいで寺が埋蔵証明を出してくれないとき ― 「これに準ずる書面」、帳簿の閲覧、離檀料の内訳
改葬(墓じまい)の許可申請には、墓地の管理者が作る埋蔵の証明が要ります。寺に「離檀料を払わなければ出さない」と言われても、手続きはそこで終わりません。規則には、特別の事情があれば市町村長が認める別の書面で代えられる、という括弧書きがあり、管理者には帳簿を見せる義務もあります。役場に相談する前にそろえる書類、離檀料の内訳の聞き方、最初に200万円と言われた家が実際に払った82万円の内訳を書きます。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → [分け方を決める] → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
「お寺に墓じまいの話をしたら、『離檀料として200万円。払わないなら埋蔵証明は出せません』と言われました」。60代の女性が、手書きのメモを持って来ました。墓は、女性の住む町から新幹線で三時間の、父の郷里の寺にあります。入っているのは祖父母と父の三人。女性は一人っ子で、子どもはいません。「このままだと、私が死んだら誰も来ない墓になる」。それが墓じまいを決めた理由でした。
墓じまいの全体の流れ(移転先の受入証明、今の墓地の埋蔵証明、改葬許可、遺骨の取り出し、納骨)は、お墓・仏壇・遺骨は誰が引き継ぐかの記事に書きました。この記事は、そのうち二番目、今の墓地の管理者が「埋蔵の証明」を出してくれないときの話だけを書きます。
まず、なぜ証明書が要るのかです。遺骨を別の墓に移す(改葬する)には、遺骨が今ある場所の市町村長の許可が要ります(墓地埋葬法5条)。許可の申請書には、墓地の管理者が作った「埋葬や埋蔵の事実を証する書面」を付けることになっています(同法施行規則2条2項1号)。寺の墓地なら、管理者は寺です。だから寺が書かないと、手続きが寺の手の中で止まったように見えます。
けれど、同じ条文には括弧書きが付いています。「これにより難い特別の事情のある場合にあつては、市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面」。管理者の証明が取れない特別の事情があれば、市町村長が認める別の書面で代えられる、という意味です。何を「準ずる書面」として認めるかは、法令に一覧があるわけではなく、申請先の市町村が判断します。だから最初にすることは、寺と言い争うことではなく、遺骨がある町の役場の担当窓口に「管理者が証明を出してくれない」と相談することです。
相談の前に、そろえておくものがあります。墓石や墓誌(亡くなった人の名前と没年を刻んだ石)の写真。祖父母や父の死亡が載った除籍謄本などの戸籍。昔の火葬許可証や埋葬許可証の写しがあれば、それも。そして、寺に証明を頼んだ日と、断られたときの言葉を書いた経過のメモです。「頼んだが出してもらえなかった」と分かる記録が、「特別の事情」の説明になります。頼むときは口頭だけでなく、手紙を配達記録の残る郵便で出しておくと、記録が残ります。
左は寺の墓。寺は埋蔵証明を出さない。女性は、寺に頼んだ記録(手紙の控えと配達の記録)、墓誌の写真、除籍謄本、申立書をそろえて、遺骨がある町の役場に相談する。役場の市町村長が、管理者の証明に準ずる書面として認めれば、改葬許可証が出て、遺骨を永代供養墓に移せる。帳簿の閲覧は墓地埋葬法15条2項で求められる。
何を「準ずる書面」として認めるかは市町村ごとの判断です。申請の前に、遺骨がある町の窓口に確かめてください。
もう一つ、使える条文があります。墓地の管理者は、墓地の使用者の住所氏名や、埋葬した人の氏名、埋葬の年月日などを帳簿に付けておく義務があり(施行規則7条)、墓地の使用者や亡くなった人に関係のある人から請求があれば、その帳簿の閲覧を拒んではいけません(墓地埋葬法15条2項)。申請書に書く「埋葬の年月日」が分からないときや、準ずる書面の裏付けとして、帳簿を見せてほしいと頼むことができます。
次に、離檀料です。離檀料(寺の檀家をやめるときに渡すお礼)を払う義務を定めた法律はありません。性格はお布施に近く、金額の決まりもありません。ただし、墓地の使用規則や、使用を許可されたときの書類に、使用をやめるときの費用(区画を元に戻す工事の費用など)が書かれていれば、その部分は契約の話になります。まず、使用規則の写しをもらって、何が書いてあるかを確かめてください。請求を「離檀のお礼」「閉眼供養(遺骨を取り出す前の読経)のお布施」「区画の工事費」に分けて書いてもらうと、話し合いの的が絞れます。
話し合いがまとまらず、強い言い方で支払いを求められるときは、消費者ホットライン(188)で近くの消費生活センターに相談する、弁護士に相談する、という道があります。私は行政書士として、改葬許可の申請書や、寺への依頼の手紙を作る手伝いはできますが、寺との金額の交渉を代わりにすることはできません。交渉の代理は弁護士の仕事です。
この家では、こう進みました。墓地の使用者の名義は、父が亡くなったときに女性に移してありました。女性は、私と作った手紙で、寺に埋蔵証明の発行を改めて頼みました。手紙には、墓じまいの理由、これまでの供養への感謝、離檀のお礼として包むつもりの金額(10万円)、使用規則の写しがほしいことを書きました。二週間たっても返事がなかったので、寺のある町の役場に電話で相談し、経過のメモ、手紙の控えと配達の記録、墓誌の写真、父と祖父母の除籍謄本を送りました。役場からは、これらに申請者の申立書(寺に証明を頼んだが発行されなかった経緯を書いたもの)を付けて申請してよい、と返事があり、約一か月で改葬許可証が届きました。
許可証が出たことを手紙で伝えると、住職から電話があり、遺骨を取り出す日が決まりました。お金は表のとおりです。最初に言われたのは離檀料200万円。実際に払ったのは、離檀のお礼10万円、閉眼供養のお布施3万円、墓石の撤去と区画を元に戻す工事35万円(石材店の見積、約2平方メートル、税込)、改葬許可の手数料0円(この町は無料)、移転先の合祀の永代供養墓が三人分で30万円(1人10万円)、遺骨を運ぶための往復の新幹線と宿で4万円。合計82万円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| (最初の請求)離檀料 | 200万円 |
| 離檀のお礼 | 10万円 |
| 閉眼供養のお布施 | 3万円 |
| 墓石の撤去と区画の工事(約2平方メートル、税込) | 35万円 |
| 改葬許可の手数料 | 0円(この町は無料) |
| 合祀の永代供養墓(1人10万円×3人) | 30万円 |
| 遺骨を運ぶ交通費と宿 | 4万円 |
| 実際に払った合計 | 82万円 |
振り返ると、止まっていたのは「証明書」ではなく「話の順番」でした。証明を出さないと言われた時点で、手続きは寺が握っているように見えます。けれど、条文は市町村長が判断する道を残していて、帳簿の閲覧を求めることもできます。この二つを知っていると、離檀料の話を手続きから切り離し、お礼の額の相談として落ち着いて話せるようになります。
これから墓じまいを考える人に、順番を一つだけ勧めます。寺に話を切り出す前に、使用規則の写しを手元に置き、移転先を決めて受入証明をもらっておくことです。行き先が決まっていない段階で話すと、「どこに移すのか」「まだ決めていないなら急がなくても」と、話が手続きの外に流れやすくなります。親族への説明も先に済ませます。墓を誰が守るかを決めるのは祭祀主宰者(お墓を引き継ぐ人)ですが、おじやおばが反対していると、寺も証明を出しにくくなります。墓に入っている人の名前と亡くなった年は、墓誌と戸籍で先に書き出しておくと、申請書を書く日に迷いません。
女性は遺骨を取り出す日に寺へ行き、住職と初めて落ち着いて話したそうです。「200万円と言ったのは、檀家が減って寺を守れなくなる不安からだった」と言われた、と。三人の遺骨は、女性の家から電車で40分の霊園の合祀墓に入りました。墓じまいで証明を断られたら、まず役場に相談する。寺に頼んだ記録を残す。離檀料は内訳を聞く。この三つで、止まった手続きが動き出すことがあります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-14
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-14 確認)。
- e-Gov法令検索 墓地、埋葬等に関する法律 ― 5条(改葬の許可は遺骨が今ある地の市町村長)、15条2項(墓地の管理者は、墓地使用者や死者に関係ある者の請求があれば帳簿等の閲覧を拒めない)
- e-Gov法令検索 墓地、埋葬等に関する法律施行規則 ― 2条2項1号(管理者の埋蔵の証明。これにより難い特別の事情があれば、市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面)、7条(管理者が備える帳簿の記載事項)
- 消費者庁「消費者ホットライン188」 ― 近くの消費生活センターなどの相談窓口につながる全国共通の番号