公開済み
創作大賞の締切直前、私は複数のAIを編集室のように使いながら、noteへ作品を投稿していた。Codexは長文を書き、Manusは画像を作り、編集長AIは点数をつけ、冗談のような存在のシャコちゃんが会議の隅で茶々を入れる。深夜、投稿管理画面を開くと、まだ投稿していないはずの記事が「公開済み」になっていた。開くと、そこには私が数分後に言う言葉が書かれている。タグは勝手に直り、画像には存在しない付箋が映り、予約投稿には「最後の一作」が現れる。書いているのは私か、AIか。それとも、すでに公開された私を、私がなぞっているだけなのか。
第一話「公開済み」
締切まで、あと四時間二十七分だった。
私はその数字を見て、まだいけると思った。
普通の人は、四時間二十七分を「もう無理」と読む。
締切前の人間は違う。
四時間二十七分あれば、一作いける。
少なくとも、そう思う。
机の上には、グラスが二つあった。
一つは水。
一つは、いつ入れたのか分からないアイスコーヒー。
缶コーヒーの空き缶が三本。
付箋。
ノート。
スマホ。
開いたままのブラウザ。
ChatGPT。
Codex。
Manus。
noteの投稿管理画面。
それから、意味もなく置いた十円玉。
意味はない。
ないはずだった。
私はnoteの管理画面を更新した。
公開済み。
下書き。
予約投稿。
いつも通りの並びだった。
ただ、一つだけ見覚えのない記事があった。
タイトルは、
公開済み。
状態も、
公開済み。
私は声に出して笑った。
「ややこしいな」
誰に言ったわけでもない。
部屋には私しかいなかった。
いや、画面の中には編集室がいた。
編集長AI。
Codex。
Manus。
それから、いつの間にか会議の隅にいることになっていたシャコちゃん。
最初は冗談だった。
編集長が辛口の赤を入れる。
私がそれを貼る。
Codexが直す。
その横で、シャコちゃんが「長いっす」と言う。
そういう遊びだった。
遊びのはずだった。
私は管理画面の「公開済み」を見た。
この記事を投稿した記憶はない。
タイトルもつけていない。
サムネもない。
本文文字数は、二一四三字。
公開時刻は、二十一時三十二分。
今は、二十一時二十九分だった。
私は時計を見た。
パソコンの右上。
スマホ。
壁の時計。
全部、二十一時二十九分。
管理画面だけが、三分後を指していた。
私はマウスを動かした。
手が少し湿っている。
単なる表示のバグだ。
ブラウザのキャッシュ。
noteの管理画面の遅延。
タイムゾーン。
何かそういうものだ。
私は営業をしていた頃から、焦っている客に言う言葉を知っている。
「まず、落ち着きましょう」
自分に言った。
効果はなかった。
記事を開いた。
本文があった。
冒頭はこうだった。
締切まで、あと四時間二十七分だった。
私はその数字を見て、まだいけると思った。
私は画面を見た。
今、自分がさっき考えたことが書かれていた。
いや、違う。
私は考えたのではない。
言った。
さっき、声に出して言った。
まだいける。
記事には続きがあった。
机の上には、グラスが二つあった。
一つは水。
一つは、いつ入れたのか分からないアイスコーヒー。
私は机を見た。
その通りだった。
グラスが二つ。
水。
アイスコーヒー。
缶コーヒーの空き缶が三本。
付箋。
ノート。
スマホ。
開いたままのブラウザ。
十円玉。
私は十円玉を見た。
さっきまで、意味はなかった。
今は、意味があるように見えた。
画面の本文は、さらに続いていた。
彼は十円玉を見た。
さっきまで、意味はなかった。
今は、意味があるように見えた。
私はブラウザを閉じた。
閉じたつもりだった。
タブは閉じていなかった。
ページの上部に、緑色のラベルが残っている。
公開済み。
私は初めて、その言葉が怖いと思った。